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【つなぐFM】匠の心と技をもって飛騨を木工の聖地とする

【つなぐFM】匠の心と技をもって飛騨を木工の聖地とする

飛騨産業株式会社

飛騨のものづくりの歴史

岐阜県・飛騨高山で豊かな森林資源を生かし木製家具やインテリア用品の製造販売を手掛ける飛騨産業。
代表取締役、岡田明子さんにビジョンや地域とのつながりについてお話をうかがった。
2021年に代表取締役社長に就任した岡田さんは、創業100 年を機に社内のメンバーと議論を重ねビジョンを明文化した。それが「匠の心と技をもって飛騨を木工の聖地とする」という「志」だ。匠の心と技とは、人を想い、時を継ぎ、技を磨き、森と歩むこと。岡田さんは「飛騨には、縄文時代から木工の腕利き職人がいた痕跡が残っています」という。飛騨地方の縄文遺跡からは、木を加工するための鋭利な石器が出土している。1300年前の飛鳥時代には、朝廷が飛騨国の税を免除する代わりに毎年100人の職人集団「飛騨の匠」に都で神社仏閣をつくらせたと「養老律令」に記されている。「志」には、飛騨を代表する企業として、ものづくりの歴史を引き継ぎ、新たな価値を付加して世界に発信したいという思いが込められている。

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2022年にリニューアルしたHIDA高山店 森と暮らしの編集室

一流の職人を育てる

神奈川にある秋山木工の秋山社長との出会いがきっかけとなり、2014年に一流の木工家具職人を育てるための学校「飛騨職人学舎」を開校した。1000年以上の時をつなぎ、匠の技と心を次の世代につないでいくことが目的だ。学費は無料で奨学金が支給され、2年間の共同生活を通して技術と人間性を涵養する。「一流の職人になるためには技術を磨くことはもちろん、人間性を磨くことが必要です」と岡田さん。これまでに50 人近くが卒業し、約半数が飛騨産業で働いている。社員やOBが指導をして一から家具をつくれる職人を養成するため、カンナやノミといった道具づくりからはじめる。
年間500万人の観光客が訪れる飛騨高山には、同社の旗艦店でもある直営店があるが、年間来館者数は1万人強。ビジョンを実現するアクションプランの一つとして、飛騨高山を訪れる1%の人に店舗に来てもらう「飛騨5万人プロジェクト」がスタートした。家具を購入する人だけでなく、地域の人や観光客が気軽に立ち寄れる場所を目指し、ショールームをリニューアルした。ゆかりの作家のアートやクラフトを扱うコーナーや隈研吾デザインの家具や空間を体感できるカフェを併設し、新たな名所となりつつある。

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一流の木工家具職人を育てるための学校「飛騨職人学舎」

森と人をつなぐ

日本では木材産業のサプライチェーンが脆弱になっている。同社でも104 年前に創業した時は飛騨の森林資源であるブナを使って家具づくりをはじめたが、1970 年代から、材料は輸入材に変わっていった。2000年にはほとんどが輸入材だったが、明子さんの父、岡田贊三さんが社長に就任して圧縮技術を開発し、国産スギ材の家具やフローリングを発売した。調達先とのネットワークができ国産材比率は、現在約15% までに回復し、2030年には30% を目標にしている。
輸入材が主流となったことで製材や乾燥を手掛ける事業者が少なくなっていたことから、2023年11月に温泉熱を利用した木材乾燥設備を導入した奥飛騨 栃尾工場を開設した。地域や国産の材料を調達して自社で製材、乾燥して使うという流れができた。工場は年間で1,000立米の木材を乾燥できる容量がある。温泉熱を利用することで約68万リットルの灯油の削減となり、コスト的にもメリットがありながら、脱炭素にも貢献できる。まず1 年は検証期間として2年目から本格的に稼働していく。「微力ですが、川上から川下へのサプライチェーンを取り戻していく取り組みをこれからも続けていきます」と岡田さん。温泉熱による木材乾燥は世界でもめずらしく、自然エネルギーを活用して地域材を加工していくことは、地域の資源循環にもつながる。

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温泉熱を利用した乾燥設備

伐採した街路樹を家具に

都市部では、台風による倒木など老木化した街路樹が社会問題となっている。自治体では都市景観や安全面から街路樹の更新計画を立てているが、街路樹は樹種や形がまちまちで、木材としては扱いづらく手がかかるため、伐採した木の活用はあまり進んでいない。2024年3月、飛騨産業は町田市と「街路樹更新計画に基づく事業連携協定」を締結し、町田市内の街路樹を伐採した木材、ケヤキ、トチノキ、タイワンフウをハイブリッドで使ったダイニングチェアととテーブルのプロトタイプを製作した。背もたれには強度のある木を使い、座面には木目がきれいな木を選ぶなど、特性に応じて使い分けていくことも高度な技術の一つである。長年、木と向き合っていた匠の技がここでも生きている。「森と歩む」という価値観を掲げ、これまでも奈良県黒滝村や岐阜県白川町と連携協定を結び、その土地の樹木を使った家具を公共施設に納めている。岡田さんは「廃棄するか燃料にしかならないといわれてきた材料を当社の技術で目に見えるところに使っていければ、身近にある森や街路樹に愛着を感じてもらえます」と前向きだ。

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町田市の街路樹を材料にしたダイニングセット(プロトタイプ)

家具に使えない木部や枝葉も有効活用

木材を使い切るという発想で研究開発を進め、樹木から抽出したエッセンシャルオイルは、直営店やオンラインストアでの販売の他、化粧品メーカーにOEM で供給している。またスギの枝葉から独自の手法で抽出した成分は、植物の成長促進が期待できることから、バイオスティミュラント*資材「杉山水」として製品化した。地元のNPO が枝打ち間伐した材料を買い取り、蒸留して農業資材として地元の農家を中心に販売している。林業と農業をつなぐ新たな試みが始まっている。
地域とのつながりも深く、飛騨地域には何らかの形で飛騨産業と関係のある人も多い。企業の利益を追求するだけでなく地域とともに成長していくことを目指しているという。さらに地域福祉も今後取り組んでいきたいことの一つとしている。「介護や子育て、障害者の問題など、国がすべてを負担していくことが難しくなっていくので、地域を代表する企業が関与していくべきだと思っています」。創業100周年記念として、児童養護施設に家具を寄贈した。また継続的な関係を続けるために社会福祉法人の建物をリノベーションしてイベントや交流のスペースをつくり、定期的にイベントを開催している。飛騨を世界に誇れる木工の聖地にするために地域の産業を次世代につなぎ、森と人をつなぎ、さらには地域の資源循環の仕組みをつくり、新たな風を吹き込んでいる。
*バイオスティミュラント: 欧州を中心に普及している新しい農業資材カテゴリー。植物や土壌の本来の力を引き出し、より良い状態にする。

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限定オイルの香りも試せる「森の香りの研究所」


この記事は、利用する人や命あるものに大切な日常を提供するさまざまなファシリティを紹介し、それらの役割やマネジメントに携わる人の思いや課題をお伝えした「つなぐFM」に掲載したものです。          (2024年JFMA JOURNAL NO.216)                                           企画・構成 重綱鉄哉、仲田裕紀子