東京都調布市にある NTTアグリテクノロジーの自社ファームでは、温度や湿度、日照量やCO₂濃度のデータをもとにAIやIoTで最適な環境に制御されたビニールハウスで350株のトマトが栽培されている。同社は、2019年にNTTグループ唯一の「食・一次産業の専業会社」として設立された。インターネットやデータを活用し、農業が抱える課題を解決しながら、資源循環型の地域社会実現をめざす。同社マーケティング統括本部セールスソリューション部 の大石佳奈子さんは「通信会社に入社した私には農業は初めてであり、毎日が勉強ですが、地に足をつけて着実に進めています。NTT東日本グループが通信インフラ事業で培ってきた『つなぐ、つくる、まもる』という姿勢は、農業を核にしたまちづくりでも同じです」という。
自社ファームの運営のほか、農家や農業法人向けにビニールハウスの設計・施工、データ駆動型農業の実装や IoT/AI による生産性向上や省力化の現場支援を行っており、地域との協働プロジェクトは、国内外に広がっている。「温室をつくり、遠隔指導のカメラを付け、スマートグラスを販売するだけではなく、それらを使って地域の課題をどう解決するかが重要です」と大石さんは強調する。
トマト栽培では、ローカル5Gを活用してハウスと東京都農林総合研究センターをネットワークでつなぎ、ハウス内外に設置されている4Kカメラの画像やデータをもとに遠隔で技術指導を受ける。また栽培スタッフがスマートグラスを装着して、その映像を指導者とリアルタイムに共有することで、きめ細かなアドバイスが受けられる。こうした仕組みにより、未経験者でも安定した栽培が可能だ。実際、外資系メーカーを定年退職後に栽培スタッフとして働いている人もいる。シフト制で9時から16時、週休2日というホワイトな働き方を実現しながら、年間を通して甘くおいしいトマトが収穫できる。


同社では、NTT東日本東京武蔵野支店や超小型バイオガスプラントを運営するビオストックや調布市と連携し、環境学習や食育を推進している。収穫したトマトは、調布市内の小学校の給食に提供され、給食の残菜は超小型バイオガスプラントで再生可能エネルギーや液体肥料となり、ハウスで利用される。小中学生が校外学習としてハウスや隣接する超小型バイオガスプラントを見学し、最先端の農業や資源循環、地産地消を身近に体験できる。
大石さんは「NTT東日本グループ各社が専門分野を探求しながら協力して地域課題に取り組んでいます。その中で農業分野、一次産業分野の会社として専門性を持って、お客さまやグループの仲間から頼られるような存在になりたいと考えています」という。
農業の持続性を実現するためには、生産だけでなく、育種、生産加工、流通販売までのフードバリューチェーン全体で取り組んでいくことが重要だと大石さんはいう。例えば、規格外品を加工・販売することで廃棄ロスが減り、新たな収入源やビジネス創出につながる。調布の同フィールドで稼働しているレタス栽培用小型コンテナは、駐車場やビルの空きスペースに設置できる。空間を有効活用しながら、消費者に近い場所で野菜をつくり販売すれば物流にかかるCO₂の削減にも貢献できる。また鮮度を保ちながら長期保存できる冷蔵庫を活用することでタイミングよく出荷でき、廃棄ロス削減や収益向上になる。このように多様な協働者と技術やアイデアを組み合わせ、バリューチェーンのさまざまな分野にも活動を広げている。
身近なファシリティを結び、地域課題解決に向けた取り組みや子どもちへの環境学習、食育の機会提供を通し、次の世代に知恵と知識をつないでいる。新しい地域社会をつくるイノベーションが始まっている。
この記事は、利用する人や命あるものに大切な日常を提供するさまざまなファシリティを紹介し、それらの役割やマネジメントに携わる人の思いや課題をお伝えした「つなぐFM」に掲載したものです。 (2024年JFMA JOURNAL NO.213) 企画・構成 重綱鉄哉、仲田裕紀子