
JFMA 副会長・フェロー
EuroFM日本大使、日本オフィス学会 会長
株式会社松岡総合研究所 代表
まつおか としあき
2025年12月にEuroFMノルウェー・トロンハイム大会が開催され、EuroFMアンバサダーとして参加した。私は2018年よりEuroFM協会の日本大使(アンバサダー・ジャパン)に任命され、グローバルFMに関する情報交流を続けている。現在では、このアンバサダーも40人・40カ国を数え、世界のFMネットワークにおいて重要な役割を担うまでに成長している。
EuroFM協会は、オランダFM協会(現FMN)、デンマークFM協会(DFM)、および英国FM協会(現IWFM)によって、1993年12月29日にオランダで正式に設立された。EuroFM大会は年1回開催される世界大会であり、ヨーロッパを中心にFMの実務家、研究者、教員、学生、関連ステークホルダーが集う。会期中は、教育セッション、パネルディスカッション、ワークショップが行われ、最終日にはアワード表彰式も開催される。2025年のEuroFMカンファレンスは、12月1日から3日まで、ノルウェーのトロンハイムで開催された。ノルウェー科学技術大学(NTNU)との共催で、NBEF(ノルウェーFM協会)およびMulticonsult社の支援を受けて行われた。

ノルウェー科学技術大学は、ノルウェー最大規模の国立大学であり、工学・技術・自然科学分野では国内最高峰の評価を受けている。これまでに2人のノーベル賞受賞者を輩出している。メインキャンパスであるGløshaugen(グレースハウゲン)には、工学・自然科学系の部局が集積しており、歴史的建築とモダンな建築が融合した象徴的なキャンパスである。学生数は約44,000人で、うち約4,000人が留学生である。このキャンパスには建築・デザイン学部があり、持続可能な建築や都市計画に関する研究が盛んに行われている。また、土木環境工学科では、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や建築・都市分野のデジタル化に関する研究が進んでいる。
さらに、キャンパスFMの観点からも、大学自体が巨大な施設群を運営しており、北欧らしいデザイン性と近代的設備を備えた教育・研究環境は、視察対象としても非常に価値が高い。キャンパス内にはZEB(ネット・ゼロ・エミッション・ビルディング)実験室があり、前夜祭ではこの実験棟を視察した。ここでは、ゼロエネルギーの実現にとどまらず、エンボディッドカーボンも同時に測定している点が特徴である。
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以下では、具体的なセッションでのトピックスを紹介したい。まず注目すべきは、アンバサダーによるセッションである。一昨年のトルコ大会では私自身も登壇したが、今回は5カ国からの登壇者が参加した。スヴィさん(フィンランド)、オルガさん(オランダ)、マイケルさん(ドイツ)、トーマスさん(オーストリア)、エックさん(タイ)は、大学教授や企業リーダーなど、FM分野を代表する専門家たちである。議論の論点は、主に以下の4点であった。

第1の論点は、ハイブリッドワークの定着状況である。出社率は国によって差があるものの、欧州・アジアを問わず、働き方に柔軟性を求める声が強いことが共通していた。オフィスはすでに「毎日来る場所」ではなく、「協働のためのハブ」へと再定義されている。
第2の論点はサステナビリティである。先般ブラジルで開催されたCOP30の合意と社会的圧力を背景に、「脱炭素」と「省エネルギー」はFMの中心的課題となっている。米国の政策的後退については多くの登壇者が批判的であったが、各国の企業の多くは規制を待たず、自発的に取り組みを進めている点が印象的だった。
第3の論点はAIである。登壇者の一人であるDXの専門家、ベルリン工科大学のマイケル・メイ教授は、AIは話題先行であり、予知保全などの実装は現時点では限定的だと指摘した。一方で、将来的な変革のポテンシャルは大きく、今後確実に成長する分野であるという点では共通認識が得られた。
第4の論点は、FM教育に関する課題提起である。大学関係者からは、FMは「不動産」や「ビジネスオペレーション」と比較して魅力が伝わりにくく、産業界から大学研究への資金提供が得にくいという指摘があった。今後は、共同研究などを通じた産学連携の深化が期待される。
このほかにも、英国で成功しているFMベンチャービジネスの事例や、サーキュラーエコノミーに関するケーススタディなどが紹介され、活発な議論が行われた。
欧州のFMにおける環境対応は、日本と比較してはるかに先行している。一方、テクノロジー分野については、グローバル化や標準化が進んでいる割に、進展が急加速している印象は受けなかった。それ以上に、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に代表される非財務情報の開示、人的資本経営への期待と実践、さらには社会価値(ソーシャルバリュー)の創出といったテーマに重きが置かれている。海外の先進事例から得られる示唆としては、環境対応や人的資本経営に関する取り組みが、今後の日本のFMにとっても重要な学びとなるだろう。
日本のファシリティマネジャーに対しても、海外の多様な専門家たちのアイデアや実践に積極的に耳を傾けることを、アンバサダーとして強く薦めたい。
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