
株式会社 Hite&Co.
代表取締役社長
認定ファシリティマネジャー
きむ ひでのり
2006年に韓国のテグで初めての日韓FMサミットを開催したことを思い出す。(写真1)。私も若手ファシリティマネジャーとして外資系金融機関の総務部内でFMをバリバリ実践していた頃である。当時は日韓ともJFMAや韓国FM協会(KFMA)の貢献もあり、FMという考え方は認知されてきたものの、統括管理組織として実践している企業はまだ外資系が中心だった。JFMAのユーザー懇談会でも外資系出身の方々からのFMの新鮮なインプット刺激を受けながら、切磋琢磨しお互い成長していった。

あれから20年近くが経ち、日本における認定ファシリティマネジャー(CFMJ)保有者も6千人を超え、大企業を中心に「ファシリティマネジメント部」が普通に存在し、不動産からワークプレイス、オフィスサービス、ウェルビーイング、CSR・SDGsなど多岐にわたったメニューの中でファシリティマネジャーが活躍する時代となってきた。JFMA賞を受賞する企業のレベルも年々上がっている。私自身もその間、日系外資系を計6社またぎながらFMを実践し、2019年にFMコンサルタントとして起業し、現在まで数十を超える企業のFM推進コンサルティング、そしてFMを実践する「人」の成長支援ができていることに喜びを感じている。
韓国での最新FM事情とFMに携わる人々のキャリアパス動向が気になり、今年の夏にソウルを訪問し関係者へのヒアリングなどを通じ、自分なりに情報収集してきた。今回は、その内容の一部をご紹介する。
これまでも韓国のFM事情はJFMAジャーナルやFMフォーラムなどでも紹介されているが、韓国では日本のようにFM公式ガイドブック的な教科書が存在せず、認定ファシリティマネジャーの資格もまだない。大学でのFMの研究や成果はあるものの、市場での認知は残念ながら日本よりも遅れている印象がある。2006年の日韓FMサミットへも参加されていたFM実務第一人者でもあるKFMAフェローの金東範さんによると、FMの関連団体として現在は建設系、不動産系、その他FM系の団体と大きく分けて3つのグループが存在している(図表1)。KFMAがそれらの団体の「調整弁」のような役割を果たし、FMパーソンの成長を支援する構図となっている。これは日本のJFMAも同じような立ち位置だが、日本ではもう少し広い分野、例えばテクノロジー系やオフィスサービス、ウェルビーイングなどサービスの分野の市場とも関わっているのと比べたら、韓国ではハード寄りのFMが主体となっていることがわかる。

韓国はご存じのとおり財閥系企業(コングロマリット)のサムソンやヒョンデ、LG、ロッテなどの市場影響力が強大であり、FM実践やキャリア傾向も財閥系企業の実情を見ることが一番の近道である。韓国内でFMアウトソーシング企業の最有力とされるGB-FMSのパク社長にヒアリングした。GB-FMSは米CBRE社のFM部門の有志が集まり独立企業した会社で、グローバルのFM戦略・管理プロセスを熟知したメンバーにより国内企業のFMサービスを受託しながら急成長してきた。2025年現在で約600人のFM人財を抱え、ヒュンデグループを中心に韓国の大企業へFMサービスを展開している。同社の売上比率を高く占める外資系企業と、そのノウハウを得たい国内企業とのパイプ役としても機能しており、同社はFM市場で重要なポジショニングを担っている。
パク社長は「韓国でFMアウトソーシング市場は今後もさらに急拡大していくだろう」という。その背景にあるのは、企業側から専門性の高いFM実践を期待される一方で、構造的な要因として財閥系企業内のキャリアパスの変化が大きいことがある。韓国ではバックオフィス機能を「経営支援部」と位置づけ人事、経理、法務などと並べてFMが存在する。「総務」という名前は歴史的に日本から韓国に渡った経緯もあり、その言葉は徐々に消え去っているようだ。その代わり「経営支援部」の中でFMを実践しており、「何でも屋」的な総務部門の中でFMを実践している日本よりも経営に近い印象もある。韓国での新卒からのキャリアパスの典型例(図表2)を参考されたい。社内キャリアを複数部門で積みながら、50歳を超えた社員の多くは次のキャリアを考え始めるという。日本の役職定年と似ているが、韓国では60歳定年という道筋が狭き門であり、55歳前後で会社を去ることが余儀なくされる。その時点でFMに関連する仕事をする人々は転職か独立をするケースが多く雇用の流動性も高い。日本では通常はFM子会社への転籍か出向となり市場での雇用流動性は低い。しかもグループ企業内で雇用が守られた中でのFM実践であり、厳しい言い方だと成長への危機感が乏しい。一方で韓国では競争市場へ出ていき、危機感をもって成長する。この日本と韓国の「雇用市場の厳しさの差」がFMアウトソース市場成長の差へ直結しているのである。

私が見る限り、韓国でのFMアウトソース市場は欧米により近く、今後大きく成長する可能性を秘めている。テクノロジーの進化とFM推進も直結している。例えば日本で主流の「仕様型の発注」ではテクノロジー推進が進まないというジレンマもあるが、韓国では性能発注型(SLA・KPI)、金額固定型で人が少ないほうが利益が生まれる仕組みの中で、FMテクノロジー進化を加速させている。こちらのほうが数年先は分があるかもしれない。
一方で、韓国市場で足りない部分は前述のとおりFM教科書と認定資格である。日本はそこで一歩も二歩もリードしているので、日本の公式FMガイドブックの韓国語訳版への期待も高く、またそれに付随した韓国内でのFM認定資格制度の確立も今後は実現するのかもしれない。
私が思い描いているのは2006年日韓FMサミットの時と同じく、時を経ても日本と韓国の双方がFM推進に関して進んでいる面と遅れている面を補完し合いながら、共にFM進化を遂げることであり、それは在日韓国人として日本で生まれ育った私だからこそ、誰よりも熱望しそのための努力も惜しまない。
今回のレポートへ協力いただいたKFMAフェローでもありENファシリティの代表取締役である金東範さんとGB-FMS社長のパクさんへ感謝するとともに、今後も日韓でFM連携していく同志であることをお互い確認し合ったソウルへの旅であった。

