
福岡大学 工学部建築学科 教授
いけぞえ まさゆき
建築分野では長らくフロー型からストック型への転換が求められてきた。公共施設マネジメント(以下、公共FM)においても老朽化が進む施設を可能な限り使い続けるための長寿命化と、施設再編に伴う用途変更への的確な対応が重要となる。既存ストックを活用していくためには、建築技術としては耐久性・可変性・更新性の向上が求められるとともに、既存空間を別目的に転用する際の計画手法が不可欠である。著者は、公共施設の用途変更事例における空間改変および学校を中心とした公共施設の増改築歴を調査し、ストック更新を空間利用の視点から捉える計画手法の確立を目指して研究を進めている。本稿では、その研究の背景として公共FMの現状を整理し、ストック型計画手法の方向性について述べる。
現在、公共FMは公共施設等総合管理計画に示された用途別方針を基礎とし、施設用途ごとの個別施設計画に基づく短期実行計画の段階へ移行している。策定が早かった自治体では短期計画から中期計画への移行が始まっているが、その過程で総合管理計画と個別施設計画の双方で見直しが行われている。特に、建設資材の高騰による更新費用の再評価、観光施設等の民間活用の恐れなどにより、当初の計画通りに進まない自治体も多い。一方、民間事業者による包括管理を導入した自治体では、点検結果に基づく改修費の精度向上や予防保全型への転換が進み、実行計画の改定により効果的な運用が図られている例もみられる。
全体として、行政機能や文化施設など全市レベルで優先位が高く、制度的・政的支援が得やすい施設では再編が比較的着実に進んでいる。一方で、地域住民の合意形成が不可欠な小学校やコミュニティ施設など地区レベル施設の再編は、今後の公共FMにおける重要な課題である。これら施設は地域生活に密接であるため、ストック活用と更新のバランスを丁寧に検討する必要がある。
ストック型の公共施設整備の流れは、建築分野における民主化や、住民参加による共創型リノベーションの動きとも連動し、「与えられる施設」から「自らつくる施設」への転換を促している(図表1)。特定用途に固定された施設から、多目的利用や複合化に対応できる施設への移行が進む。さらに運営段階では、民間事業者や地域住民が主体となり、その地域性を反映した施設運営がまちづくり活動へと発展していく。特に地区レベルの再編では、ストック活用型あるいは更新型の多機能拠点を整備し、そこを基点に住民主体の地域運営へ展開するビジョンが描ける。その意味で、公共FMの初期段階でモデル的に整備される拠点施設の成功は、施設再編全体の方向性をする重要な機会である。

著者は2002年頃から九州圏の地方都市を中心に用途変更事例を調査し、空間改変と利用の実態を分析してきた。その結果、用途変更では既存空間の条件が先行するため、面積規模や空間形態が新用途にどこまで適合するかを事前に判断することが難しく、供用後も空間構成や利用方法の変更が継続的に生じることが分かった。複数用途を導入する複合化の場合は特にこの傾向が強く、本来複合施設として計画されていない建物では、空間配置と利用の両面で調整の難度が高まる。調査から得られた主な課題は以下である。


学校教育施設は保有面積が大きく、その再編・縮減は公共FMの要点である。高度成長期の児童数増加に対応して分増築によって拡張された小学校では、棟ごとに建設年代が異なるため、全体計画に基づく更新が求められる。著者の分析では、最も古い校舎は管理系諸室に利用され敷地端部に配置される例が多いが、変更の要求も大きいため自由度と拡張性に優れた片廊下型の平面が適していると言える。一方、学級教室は移動量が大きく、片廊下型では学年ブロックが形成されにくいことが分かった。そこで、最古の校舎更新時には管理系室を配置するのではなく、学級教室をクラスター形式で整備する更新手法を提示した(図表2)。

用途変更による複合施設では、供用初期は利用側も試行錯誤の段階にあり、運用しながら新たな空間要求が生じる。初期段階で専用空間を過度に整備すると、その後の変更に対応しにくい。そこで著者は、初期改修では最低限の空間改変や柔軟性の高い大空間化にとどめ、設備的対応を中心とした整備を行い、利用が定着して高度な要求が明確になった段階で本格的な空間改変を行う段階的手法を提案する。これは、プログラミング(用途設定)とプランニング(空間改変)を一体化させず、相互作用させながら発展させるもので、「作り込み型計画プロセス」と位置づけている。住民や多様な主体と共に施設を更新する共創型リノベーションの考え方とも整合的であり、今後は計画技術の提案へと深化させていきたい。