
一般社団法人ASIBA
東京大学工学部都市工学科都市デザイン研究室
たかの ひろうみ
ASIBAは、建築・デザイン領域の手クリエイターが、自らの創造性と主体性を起点に、社会的な問いに応する実践を広げていくためのインキュベーション・スタジオです。既存の政策や組織の枠組みだけでは捉えきれないほど課題が多元化・複化する現代において、クリエイティブ領域を起点とした社会的実践が必要だと考え、クリエイティブアントレプレナーシップをとした人材育成・事業開発支援・自社事業推進を行ってきました。
クリエイティブ・アントレプレナーシップは、「自ら問いを立て、社会との接点を構築し、具体的な行動を通じて新たな選択を提示していく姿」を意味します。不確実で先のめない現代では、与えられた課題に対して最適な解を導き出す問題解決型の人材以上に、目的そのものを問い直し、30年後、50年後の社会がどうあってほしいかを選び取る「問題提起型」の力が求められています。建築・デザイン領域の職能育で養われてきたこの知性が、アントレプレナーシップ精神を併せ持つことで、より創造的で豊かな社会を作れると考えています(図表1)。

ASIBAに参加する多くの 者は、社会課題や意義ではなく、内発的な動機や「つくりたい」という強い思いが先行しています。最初は何を作りたいのか自分自身でもわからない状態からスタートしますが、少しずつ自らの「問い」を見つけ出し、実践してみることでだんだんと形になり、社会に近づいていきます。個人から社会、そして世界へと探求を進めた先に、社会のあり方に対して自らの主体性をもってモノを作れるようになるでしょう。すなわち、自分が生きることの延長線上に社会と世界が存在し、そこに新たな可能性が立ち上がってくる状態です。
世の中には個人の好心や内発的な動機が薄れ、目的と手段が逆転しているケースが少なくありません。私たちはASIBAを通じて、個人の主体性を取り戻し、「何のためにモノを作っているのか」という目的をもう1度見つめ直したいと考えています。
さて、ASIBAは個人レベルでこのような変化を生みつつ、グループとしてクリエイティブな社会的実践のエコシステムを立ち上げ、経営支援、パートナーシップ、ファイナンスのあり方を探求しています(図表2)。

ASIBAの事業は大きく分けて3つです。1つ目のインキュベーション事業では、建築・デザイン領域でプロジェクトに取り組む手を対象に、3カ月間の伴奏を通じて事業化を目指すプログラムを提供しています。ここでは、前章で説明したような自己内発的な変容を促しつつ、同世代のメンターとともに事業・クリエイティブ両面での支援を行います。これまでの2年間で3期・36プロジェクトを採択し、100名以上の卒業生を排出してきました(写真1、2)。


2つ目はレーベル事業です。これは、インキュベーション・プログラムを卒業して法人登記を行い、本格的な事業開発を行うクリエイターを対象に、大企業・自治体との協業支援を中心に、経営支援を行うものです。クリエイティブ領域では、作りたいモノや景色、関係性、世界観が生まれて初めてビジネスモデルが立ち上がります。また、前提としてクリエイターのビジネスリテラシーは低く、一定のビジネス経験を積む必要もあります。そこで、ASIBAは保有する建築・不動産系の大企業や自治体とのネットワークを活用して、ASIBAを含めた3社でプロジェクトを組成し、クライアントワークの中で制作やリサーチを行うことで、一定の資金とビジネス経験値を得ながら事業解度を上げていく、という支援を行っています。例えば中古建材のリユースに取り組むReLinkは、大手ゼネコンとの共同リサーチを行ったり、高島平団地で行政と連携したリユースによるまちづくりの実証実験を行ったりしています(写真3)。

3つ目はデザインスタジオ事業です。ASIBAは支援者でありつつ、誰よりもクリエイティブ・アントレプレナーシップを体現する者でありたいと考えるからこそ、企業の課題解決や自社事業開発を領域横断で進めています。具体的には、まちづくりに主観的情報を取り込むための「間主観的デジタルツイン」の開発や、未来察を踏まえた大手ゼネコンの技術開発支援、生き物の視点から都市デザインを考えて実装するワークショップシリーズなどを行ってきました。2026年にはより多くの作品制作や論文筆も行っていく予定です。
歴史上、絵画をはじめとしたクリエイティブなエコシステムはパトロンモデルによって成り立ってきました。自分が表現の特別な受け手であれるという状況に、一部の富裕層がお金を支払ってきたのです。しかし現代において、真に創造的なものは、地に足の着いた生活的な目線で生まれていくと信じたいし、そんな社会にすることが建築や都市計画を学んできた私たちの使命だと考えています。
ASIBAは、クリエイティブ領域に多様な資本や社会的信用がされるような、システムチェンジを起こすことを目標にしています。すなわち、クリエイティブ・アントレプレナー達が一定の金銭的リターンを生みつつ、美しい作品や新しい学術知を生み出し続けている、という状況を作ることです。ASIBAはそのために、①クリエイティビティが守られる場所を作ること、②エコシステムそのものを圧倒的に拡大させること、③事業開発とクリエイティブ学問知創出を横断的に支援すること、④支援先の実績や自社事業を通じてこの領域から一定の金銭的リターンが生まれると証明すること、にコミットしてまいります。
投機的ではなく長期的な未来の視座に基づき、1つのプロダクトでの一点突破ではなく、研究や作品制作などさまざまなメディウムを横断し、行政や大企業など硬直的だが公共的な主体を巻き込んでインパクトを生み、金融資本ではなく文化資本を増やしていく、そんなクリエイティブ・ファーストな社会への変革を目指して。