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自然との共生をテーマにしたアクロス福岡ステップガーデン(アクロス山)の30年

自然との共生をテーマにしたアクロス福岡ステップガーデン(アクロス山)の30年

株式会社 Takebayashi Landscape Architects
代表取締役
ランドスケープアーキテクト

竹林 知樹

たけばやし ともき

内山緑地建設株式会社
樹木医

能勢 彩美

のせ あやみ

エイ・エフ・ビル管理株式会社

杉 雅文

すぎ まさふみ

はじめに

竹林知樹・杉雅文

 アクロス福岡は1995年に竣工し、今年で30年を経過、福岡市を代表するランドマークとなり、今なお訪問者や見学者が絶えず、オフィス棟で働く人々を含めると年間100万人が利用する複合型ビルである。欧米には、年月を積み重ねることでより成熟した外観となり、その建築物や都市の価値を高める施設が存在するが、アクロス福岡も福岡市においてそのような存在になっている。

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写真1 福岡県庁跡地に建設された公民複合施設「アクロス福岡」全景。北側
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写真1 南側。天神中央公園に面した南側は、ステップ状の屋上庭園になっている

コンセプトと概要

竹林知樹・杉雅文

アクロス福岡ステップガーデンは、福岡県庁跡地の天神中央公園に隣接するオフィス及び県施設を要する複合ビルの南側において、四季を感じさせる健康で豊かな地元の山を育てることをコンセプトに新しい維持管理手法を取り入れ、今の言葉で表現すれば、資源循環・自然再興(ネイチャー・ポジティブ)の観点で、当時では想像できないほど先の未来を見据えたものであった。いま30年の月日を経て、ようやく当時のイメージを「アクロス山」として、現代社会の価値観に沿う、またはそれを超えるような自然豊かな山になっている。

主要なコンセプトの1つは地元福岡の地域在来種で構成する植栽設計である。アクロス山では、種の多様性の保持も考慮し、この地域に昔から自生していた植物の種にこだわり、同じ在来樹種でも他地域から持ち込まれた植物は使わず植栽された。そのため一度に大量のしかも背の高い植物を入手することは困難であり、当初は背の低めの植物が植えられた。そこで竣工当時は花壇を感じさせるような景観となったが、自然豊かな山を育てる思いのもと、年月をかけて景観をつくる考え方を貫いた植栽計画であった。

地域在来種による緑地は、都市においても野鳥など生き物の訪れる生息地となった。実生などにより鳥が運んできた樹種数は、当初植栽した種数の倍となり、年月を経てより多様な緑地になる成果を生んだ。

次に雨水を基本とする植栽の灌水である。アクロス福岡の建設時は、まだ福岡市への筑後川導水は行われておらず、福岡市はたびたび渇水災害に見舞われていた。そのため上水を貴重な資源と捉え、雨水だけで植物を育てる計画が立てられた。これにはアクアソイルという人工軽量土が大きな役割を果たした。

副次的な効果として、南側壁面が「緑のカーテン」で覆われたことにより、南側壁面の温度が植栽の壁面と比べ、約10℃ほどの冷却効果を発揮している。近年では各家庭等で「緑のカーテン」が普及しているが、その先駆けとなっており、結果としてビルの光熱費抑制に寄与し、環境にやさしいビル設計につながっている。

経年変化について

能勢彩美

1995年の竣工から30年が経過し、ステップガーデンの“森番”は私で3人目となった。1995年に76種植栽されてから、2025年の調査により草本、木本合わせて150種類以上存在することが確認された。これまで(2010年、2019年)に行った調査結果と合わせると、ステップガーデンで観察された植物は延べ200種以上となった。数年おきに新種を植栽することもあれば、外部から鳥などの動物や風によって運ばれることによって植物が増えた。また、大きくなりきれずに消失する植物もあった。

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写真2 竣工からの経年変化。緑化したステップガーデンは天神中央公園と一体化し、都市の中に豊かな環境を創出している

竣工当時は落葉樹と常緑樹の比率が3:7だったのが、現在では落葉樹がずいぶん増えた。設計コンセプトが「都心のビルに花鳥風月の山をつくる」だったので、より四季を感じられるように落葉樹を増やす取り組みを行った。大きくなった常緑樹を伐採し、太陽の光が差し込むことによって新しい樹木が生長できるようになる。そこに落葉樹の実生が育つ空間をつくった。また、2022年に大規模修繕工事があり、工事に係るエリアの樹木を伐採し新しい植物(ウリカエデやツリバナ、ゴマキなど)を植栽した(写真3 2022年7月の状況)。森林内では台風などの災害により樹木が倒れることがある。これは「自然的攪乱」と呼ばれ、森が新しく生まれ変わるきっかけとなる。自然環境で起こる攪乱を人の手でまねして、樹木を一部伐採し、新しい植物を植えることで「アクロス山」の多様性増加を促すのである。

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写真3 2022 年7 月の状況。樹木を伐採し、次世代となりうる植物を植えた

動物の目撃情報もある。野鳥では、メジロやアカハラ、ソウシチョウ、ジョウビタキなどが観察されている。私が一番驚いたのは、2021年の巡回中に体長50cmほどのアオダイショウを目撃した時である(写真4)。ネズミや鳥を餌とするアオダイショウは、食物連鎖の上位に位置し生態系の健全さを示す指標となる動物だ。アクロス山はゆっくりとだが、確実に成長しているのである。私は2度しか確認していないので、もし今後発見する方がいらっしゃるなら、大変な幸運と思ってそっと見守っていただきたい。

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写真4 巡回中に発見した体長50cm のアオダイショウ。アオダイショウは食物連 鎖の上位に位置し生態系の健全さを示す指標となる

日々の管理について

能勢彩美

通常、植栽管理は剪定、除草、消毒、施肥の各項目について年に何回行うというのが一般的である。一本一本剪定して樹形を整え、虫がつかないように薬剤を散布し、肥料をやる。すなわち植栽の“維持”管理である。一方でステップガーデンの場合はそれとは異なり、“山に育成”する管理が行われる。主な管理は第一に剪定、第二に伐採で、無農薬無灌水の管理である。天神中央公園から“山”に見えることを重視し、“山”のバランスを整える剪定を行う。また、2022年~2024年の間で、直径30cm以上の多くのスダジイなどの常緑樹を伐採した。剪定・伐採した枝葉については、場外持ち出しを一切行わず、小さく切り刻んで植え込みのなかに戻すか、バイオネストの材料としている。

バイオネストとは、幹や枝をサークル状に組み上げ、サークルの中に小さく切り刻んだ枝葉を積み重ねた、堆肥置き場である。堆積した枝葉を微生物の活動により時間をかけて腐葉土にし、カブトムシなどの新たな生き物の生息場所となることを期待している。将来、アクロス福岡で昆虫採集ができる日がやってくるかもしない。

また、鳥にとって虫は主要な食糧源であり、特に春から夏にかけてはヒナを育てるために大量の虫を食べる必要がある。無農薬であることは虫の生育を阻害せず、虫がいるということは鳥も飛来してくるということである。そして、秋から冬には果実を食べ種子を運ぶ。運ばれて発芽した実生も、除去せず自然のままに残している。これによって生態系の循環が成り立っている。

よく「灌水をおこなっていますか」という質問をいただくことがある。基本的には無農薬・無灌水の管理を行っているため、灌水を行うことはほとんどない。保水性の高い人工土壌を使用しており、30日灌水しなくても問題のない設計となっている。しかし、近年の猛暑や渇水によりイヌエンジュが葉を落としたり、ソヨゴが10数本枯死したりすることがあった。そのような年には、地下の雨水貯水槽からくみ上げた水をスプリンクラーによって灌水することもあった。ステップガーデンで樹木が枯れることは決してネガティブなことととらえていない。他の植物との光競争や水分競争に負け樹木が枯れたとしても、その空間は次の新しい植物の生育場となる。ある程度自然の遷移に任せながら管理することで、さらに30年後にはまた違った景色になっているだろう。

今後の計画について~30年間の知見の継承

竹林知樹

第一には、30年を経て築かれたアクロス山の環境づくりの知見を継承していくことが大切と考えている。具体的には、福岡の地域在来種による多様な山の植栽により、野鳥が生きる自然の生態系にアクロス山が組み込まれ、鳥により新たな種が持ち込まれ樹林が多様になること。人による伐採の際には、伐採を機会と捉えてさらに多様な樹林となるよう、地域在来の苗木などを植栽し、成長する景色を楽しむこと。枯れ枝・落ち葉などの廃棄物をオンサイト処理・再利用すること。このような考え方を維持することである。

アクロス福岡で示された資源循環を可能とする人工地盤緑化の知見と価値を、周辺の博多・天神地区や日本国内に広げていく発信を行っていくことも重要である。基本的なポイントとしては以下である。

1)雨があたるところに緑地を計画する。雨を活かす。
2)信頼性の高い人工軽量土を使う。
3)地域の自然生態系に加わる在来種を選ぶ。
4)大切にしたくなるような景観をつくる植栽設計を施す。
5)年月を経るごとに植栽が成熟し、より良くなることに配慮する。

自然の雨を栄養とし、過剰な管理をしないでも育っていく適切な植栽基盤や設計を行えば、小規模でもアクロス福岡と同様の「都市の自然」をつくることができるだろう。

いまだ実証されていないアクロス福岡の価値として、たとえば種の多様性を保つ植物による緑地がもたらす、鳥を呼ぶ以外の効果など、他にも多様な価値が想定される。また今後の社会や環境の変化に伴い、アクロス福岡が実は有している新たな価値が見えてくることも考えられる。今後もさまざまな観点からアクロス福岡の価値を掘り下げていきたいと考えている。

前述してきた通り、アクロス福岡が都市の環境に貢献してきた価値は、施設や敷地単独に留まらない。従って、施設単独の収支によってのみ施設の維持が考慮されるのではなく、もっと大きな領域の経済活動や環境保全に基づく仕組みによって、施設およびそれが有する環境を維持する方法も考えられるのではないだろうか。今後、このような仕組みに関するリサーチを行い、「仕組みで維持する」アプローチを検討する計画である。

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図表 生物多様性保全へのサステナブルな取り組み