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資源循環とワークプレイスの未来―オランダの事例から―

 資源循環とワークプレイスの未来―オランダの事例から―

JFMA フェロー
コクヨ株式会社

齋藤 敦子

さいとう あつこ

過去と未来をつなぐ資源循環

九州と同じくらいの国土面積で、その4分の1が海抜ゼロメートルというオランダは、資源を捨てずに大切に使い続ける文化としくみがある。オランダといえば、フードテックなどテクノロジーを活用した最先端のイノベーションにも積極的だが、常に先端を追い続けるだけではなく、古いものも活かすという智慧に長けた国である。今あるものをどう活かすか、これから作るものを将来どうやって使い続けるか、という過去・未来の観点もいれて、現在の街づくりや建築プロジェクトを行っている。これはハードに限ったことではなく、プロジェクトの過程や、最終的に使われるマテリアルや什器備品まで一貫しているようである。

筆者は2010年頃から、フューチャーセンターやリビングラボの調査研究でオランダを何度か訪れているが、将来に向けた構想力と実行力を支えている独特の市民感覚のようなものがある。それぞれの地域にある歴史と文化をリスペクトしながら将来の構想を市民目線で描き(フューチャーセンター)、企業がもつソリューション、大学がもつ客観的評価などを掛け合わせて社会実装していく(リビングラボ)。このような動きは世界にも広がっており、特に循環型経済のような大きな社会システムの移行が伴う場合、生活者自身が「資源循環をなんのためにやるのか」という意識をもちながらも、無理なく続けられるしくみが欠かせない。オランダのフューチャーセンターでは、さまざまな立場の人たちが対話を通して学び、ワークショップなどで体感し、デザインで解決策を描き実装するまでを行っている。市民と研究者とデザイナーが一緒になって進めているプロジェクトも多い。

また、オランダは貿易で発展してきた国であり、船、家、家具、機械など、さまざまな物を修繕しながら新たな発明につなげてきた。今もその文化は根付いており、日常的にリユースやリサイクル、アップサイクルが行われている。筆者が訪問したアムステルダムの照明器具に特化したアップサイクルの会社は、ヨーロッパのさまざまな地域から、さまざまな時代の古い照明器具を集め、新しいデザインの製品を生み出している。オランダはパリやベルギーに近く、ロンドンとも英仏海峡トンネルでつながっている。各地から集めた照明をパーツごとに丁寧に分解し、それらをマテリアルとして新しいデザインの照明器具として再生する。日本人も働いており、手仕事の丁寧さや器用さ、発想の豊かさが一緒に働くオランダ人にとってよいパートナーだと聞く。海外のインテリアデザイナーからの注文も多く、マテリアル自体の魅力、デザインの力、そして職人技により、新たなビジネスを生み出している。

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写真 1  温⽔プールをリノベーションしたワークプレイス「ブルー・シティ」
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写真2 サーキュラーエコノミーのスタートアップの拠点

温水プールをスタートアップオフィスへ

このように、さまざまな物をリユース、リサイクル、アップサイクルするオランダでは、建築のリノベーション・プロジェクトも多い。日本ではまだ課題が多く実現に至っていないが、オランダは世界に先駆けて、取り壊す、または改修する建物で不要になった建材をマテリアルとして再利用するマテリアル・バンクが運用されている。日本でも大阪万博のミャク市のような実験的なプロジェクトはあるが、通常のビルでマテリアル・バンクを実現するにはまだ課題も多い。

循環型経済のスタートアップ拠点として世界的に有名なブルー・シティは、ロッテルダムにある市民のための温水プールをリノベーションしたインキュベーション施設である。サーキュラーに関係する55社(2025年現在)の企業が入居し、ユニークなビジネスを展開している。この温水プール「トロピカーナ」は1988年に開業、地元の人に愛されていたが、時間とともに利用者が減り、高い運営費用を賄えなくなり2010年に閉鎖された。その後、取り壊し案が出るたびに市民に反対され、廃墟となっていた。オランダでは1994年にスクワッド法が制定されており、廃墟のまま放置しておくことはビル所有者にとってリスクが高い。なぜなら、スクワッド法とは、1年以上使われていない建物を、その所有者が建物をすぐに利用する計画を提示できなければ、外から来たスクワッター(不法占拠者)がそこに住んでよいというものだからである。温水プールの持ち主は、このスクワッターを防ぐために入居者を探したところ、循環型経済にかかわる起業を目指していた2人の起業家がここを拠点としてビジネスを興すことになる。常に気温を一定に保つことができる元温水プールの地下で、コーヒーがらからキノコを育てるビジネスを立上げ、その後、ブルー・シティへと発展していく。ブルー・シティとはグンター・パウリの著書「ブルーエコノミーに変えよう」から着想を得ている。この2人の起業家はこの本に共感し、また共感した他の起業家たちが、このブルー・シティに集まってきた。パウリが定義するブルーエコノミーとは、海洋や沿岸、淡水などの生態系を保全しながら、資源を循環させて無駄をなくし、経済的にも持続可能な発展を目指す経済モデルである。ビジネスとしても成長分野であり、微生物や菌を使うため、培養に適した施設が必要となる。ロッテルダムの沿岸部に立つ温水プールは、機能的にもブルーエコノミーのインキュベーション施設として最適であった。2015年に起業家たちがこのビルを買い取り、ブルー・シティという共同体となっている。循環させるためには「つながり」が重要で、さまざまな領域で起業をしかける人たちがコミュニケーションを密にし連携している。

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写真3 古い窓枠を再利用したジグザグの通路

現在はオランダの国策でもある循環型経済のメッカとして認知され、世界中から視察者が訪れる。温水プールだった場所はそのままイベント会場として利用され、日々、さまざまなイベントが開催されている。1階はメンバー向けのフリーワークスペース、個人の専用デスク、地下は培養ができる環境が整ったラボスペース、フードハブなどがある。通路はガラス張りでメンバー同士のコミュニケーションがとりやすい環境になっている。1階のワークスペースは別の建物で使われなくなった窓枠を再利用しており、サイズが合わないためジグザクの通路となったが、防音性が高く、空間のリズムも生まれている。ブルー・シティのリニューアルは約9割が再利用された資材を使用している。

資源循環を体現するオフィスビル

将来、マテリアルとして再生可能な新築ビルとしては、ユトレヒト州のドリーベルゲン=レイセンブルグにあるトリオドス銀行のオフィスビルがある。設計したのは大阪・関西万博のオランダパビリオンを担当したRAU Architectsである。同銀行は、社会と地球をより豊かにする「インパクト」に投資を行うソーシャル・バンクとして知られており、再生可能エネルギー、生物多様性の回復など、社会や環境に配慮した事業への投資を専門としている。2017年に竣工したオフィスビルは、同銀行の思想が反映されるとともに、それまで事例のなかったBIMベースのマテリアルパスポートを作成している。マテリアルパスポートは、すべての原材料、製品、部品に加えて、それらの供給源とリサイクルの可否などの情報が一元化されており、将来、簡単に部品レベルで再利用ができる。実際にはメーカーやその下請け会社から、BIMで使う品質のデータを収集することは容易ではなかったそうだ。だが、オランダが大切にしているパートナーシップや対話から、この難しいプロジェクトが実現に至ったと聞く。ユトレヒト州はオランダの中央に位置しており、アムステルダムからも45kmほどの近距離である。筆者がこのビルを訪れたのは真冬の1月だったが、駐車場から小道を歩いてオフィスビルのほうへ向かうと、林の中にいる鳥がさえずり、その林を抜けると有機的なフォルムのオフィスビルが姿を現した。建物はガラスファサードの木質建築で、マテリアルパスポートと特殊工法により部品としての分解を可能にした。1階はカフェテリアとオープンなロビー空間、2階以上がオフィスとなっている。カフェテリアはオーガニックでバリエーションのある豊かな食事が提供されるが、アレルギー対応、環境負荷低減、地産地消として小さな野菜工場もある。また、1階から上階へ移動するエレベーターの前にコーヒースタンドがあり、オフィスに出入りする従業員同士の立ち話スポットにもなっている。1階は誰でも自由に出入りができ、社会と地球をより豊かにするプロジェクトの紹介やアート作品などが展示されている。1階には従業員だけではなく地元の人や従業員の子どもなども訪れ、カジュアルなコミュニケーションの姿がみられた。

他にもオランダ国内にはサステナブルレストラン(廃棄物を出さない、地産地消、障害がある人をスタッフとして雇用するなど)や、仮設的なコンテナ建築など、社会課題の解決を目指すユニークで実験的なプロジェクトが多い。冒頭述べたように、国土の4分の1が海抜ゼロメートルという地理的なリスクを抱えるなかで、多様な人たちとの連携や共創を大事にしてきた文化がこれらのプロジェクトの背景にあるように感じ取れる。

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写真4  ⽣物多様性の回復を⽬指したトリオドス銀⾏
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写真5  トリオドス銀⾏の本社ビルでは、BIMでマテリアル情報が一元化されている

ワークプレイスの未来

これまで紹介してきたワークプレイスは、今は特殊解かもしれないが、オランダで生まれたアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)が日本にも浸透したように、循環型経済というテーマに対してワークプレイス、オフィスビルにも今後、抜本的なチャレンジが求められるかもしれない。日本でも建築のリサイクル率は高まっているが、建築だけではなくオフィスを構成する家具や情報機器、毎日発生するごみなど、さまざまな観点から資源循環を考えていく必要がある。また、オランダはワークシェアリングの先進国でもあり、自律的に自分らしく働くことを大事にしてきた。シェアするからこそ余裕や新しい発想が生まれ、シェアするのは空間やナレッジだけではなく、思想や将来ビジョンも含まれる。

今、私たちの働き方は大きく変わりつつある。情報化が進み、AIの汎用化などで仕事/ビジネスにおける人の価値が問われている。循環型経済は地球環境への配慮だけではなく、その名の通り、経済や社会を豊かにしていくものである。エネルギーやゴミなど個々の問題解決は簡単ではないが、オランダの事例のように、人・組織がリーダーシップをもって、未来に係る問題に少しずつ取り組むことはできる。日本でも例えば、徳島県の上勝町は人口減少という課題を抱えながらも、ゼロウェイストの町として未来の価値を世界に発信している。循環するサイクルを最初は小さくまわしながら、周辺の共感を得ながら大きくしていくこともできる。

今は日本でも、モノとしてのワークプレイスから、コトとしてのワークプレイスへと進化している。組織が将来にわたって社会(顧客)に提供したい価値をワークプレイスで表現することで、従業員のモチベーションアップやエンゲージメントにもつながる。ブルー・シティとトリオドス銀行は、社会と地球をより豊かにするという方向では重なり、それぞれのデザイン手法は異なるが、有機的で予定調和ではないワークプレイスのように感じられた。資源循環や生物多様性については、日本の都市開発や建設プロジェクトでもコンセプトに掲げられることが多く、ソリューションに加えて、思想やその建物を通して体験できるコトのデザインも今後重要になるだろう。

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写真 6  カフェテリアでは、敷地内の野菜工場で栽培された有機野菜など、豊かな食事が提供される
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写真7 1階は誰でも自由に出入りできる