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ファシリティマネジメントとサーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ

ファシリティマネジメントとサーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ

JFMA理事・フェロー
JFMA調査研究委員会 委員長
ファシリティデザインラボ代表
認定ファシリティマネジャー

似内 志朗

にたないしろう

はじめに  サステナビリティで変わるFM

2021年発刊のJFMA SDGsタスクフォースレポート2021『SDGsで変わるファシリティマネジメント』において、FMが目指すべき究極の目標として、「環境負荷の最小化(E課題の解決)」と「ウェルビーイングの最大化(S課題の解決)」という二本柱が提言された。この目標は、地球環境(E)、社会(S)を健全に保つ上に人間の経済行為が成立するという考えに基づいている。環境(親亀)、社会(子亀)、経済(孫亀)という喩えで理解されるように、経済の長期的繁栄を考えるならば、その基盤である環境と社会の健全性が不可欠という自明の事実に基づいている。 世界の動きから遅れつつも、日本でも2020年10月の「脱炭素2050」宣言以降、グリーン変革(GX)が本格化し、2050年や2030年のカーボンニュートラル(CN)目標から逆算し、「今、何をすべきか」を導き出すバックキャスティングの思考が求められた。また、従来のCSR(企業の社会貢献活動)から、事業(本業)そのものが環境や社会へ貢献するCSV(共有価値の創造)へと企業も人々も意識を変えつつある。政治的なバックラッシュも見られるが、環境問題が解決ししていないという事実から目を背けることはできない。

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図表1 環境(親亀)、社会(子亀)、経済(孫亀)

三本柱としてのCN,CE,NP

これまで力を入れてきた脱炭素(カーボンニュートラル:CN)への取り組みに加え、資源の消費と廃棄を抜本的に見直す資源循環経済(サーキュラーエコノミー:CE)、そして人類の経済活動の基盤である自然資本を保全・回復させる自然共生(ネイチャーポジティブ:NP)というアジェンダが注目を集めているが、これらはCNと同等か、それ以上に深刻かつ本質的な課題でもある。言うまでもなくCN,CE,NPは、地球の限界の露呈を背景に、国際社会が設定した緊急性の高いアジェンダである。CNは気候変動対策の中核であり、日本を含む140〜150カ国がネットゼロ目標を表明している。CEは1972年のローマクラブ「成長の限界」の警告通り、人口増加や資源採掘の継続が地球のキャパシティを超えつつある現状に対応するもので、資源採掘と廃棄を最小化し、資源を経済システム内で持続的に循環させるための産業構造の抜本的変革を目指すものである。NPは生物多様性の危機に対応するもので、2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、「生物多様性の損失を止め反転させる(自然再興)」の達成が2030年ミッションとして掲げられる。

注意すべきは、CN,CE,NP相互のシナジーとトレードオフがあり、複合的課題として統合的に扱う必要があることだ。例えば、建物の長寿命化は、解体や新築に伴うマテリアル由来のGHG排出(エンボディードカーボン)削減に直結し、サーキュラーエコノミー(CE)にも寄与する。建築の木造化・木質化も、エンボディードカーボン削減(CN)、サーキュラーエコノミー(CE)、持続可能な森林管理と生物多様性保全(NP)に貢献しうる。一方で、例えばバイオマス発電導入、太陽光発電パネル設置(CN)は土地利用条件によっては、生物多様性(NP)に悪影響を及ぼす可能性がありうるなど、総合的配慮が求められるのである。

資源循環経済(CE)の国内外の潮流

いま、世界の経済・産業構造は「大量生産・大量消費・大量廃棄」という直線型の経済(リニアエコノミー)から、「資源の再利用と循環を前提とする経済」(サーキュラーエコノミー)へと転換しつつある。この動きは欧州が先行しており、EUは2015年に「循環経済行動計画」を採択、さらに2020年には「新循環経済行動計画(CEAP)」を発表している。そこでは、建築・建設、バッテリー・自動車、プラスチック、繊維、電子機器、食品などを重点分野とし、製品設計から廃棄後の再資源化までの一連のサイクルを制度的に管理する方向が明示された。

建築・不動産分野では、建設廃棄物の最小化、既存建物の長寿命化、資材の再利用やリユース市場の整備が進められている。オランダ・アムステルダム市は、2050年までに完全なサーキュラーシティを目指す都市戦略を掲げ、建物の「解体」でなく「解体を前提とした再利用設計(DesignforDisassembly)」を義務づける試みも始まっている。

日本でも経済産業省・環境省を中心に、循環経済への移行を産業政策の中核に据える動きが加速している。経産省の「循環経済ビジョン2020」や「GXリーグ基本構想」では、製造・物流・建設を横断する資源循環の促進が掲げられ、2022年には関係府省連名による「循環経済移行ロードマップ」が策定された。そこでは、資源の利用効率向上と同時にカーボンニュートラルと整合的な経済モデルの実現が重視されている。また、内閣府SDGsタスクフォースレポート(2023)では、循環型経済は「地域資源の再生・再投資による経済的好循環」として位置づけられ、自治体・企業・市民の連携が不可欠とされている。

こうした国際潮流を踏まえると、FM領域はもはや「施設の効率的運用」にとどまらず、「資源循環を実装する社会的基盤」としての役割が求められている。本誌の斎藤敦子氏によるオランダ事例報告のトリオドス銀行本社ビルでは、BIMを活用したマテリアル・パスポートにより、将来の部材再利用までを見据えた分解可能な建築が実装されている。FMは、建物・設備・家具・什器・消耗品などのライフサイクルを横断的に管理する立場にあるため、資源の投入から廃棄までの流れを可視化し、再資源化や再利用の仕組みを組み込む上で中心的なプレイヤーとなる。

FMによるCE課題解決の可能性と実例

日本では経済産業省や環境省による循環経済移行ロードマップ策定がなされている。経済産業省では資源循環と成長を両立する「成長志向型の資源自律経済」を目指し、資源有効利用促進法などの制度改正を中核に据えた政策を加速させている。具体的には、資源循環経済小委員会で動静脈連携の課題を議論し、2025年に「脱炭素成長型経済構造移行法等の改正法」が成立した。施策の柱は、①再生資源利用計画の義務化、②環境配慮設計の促進、③再資源化の促進、④CEコマース推進である。また、支援策として、技術開発や実証への投資支援を2025年度から3年間で、100億円規模で実施するとしている。これらの施策により、設計から廃棄までライフサイクル全体の資源循環を実現し、日本企業の国際競争力強化と持続可能な社会 の構築を図っているのである。

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図表2 サステナビリティ時代のFM

FM分野でも、日本オフィス家具協会(JOIFA)が推進するグリーン購入法対応やカーボンフットプリント表示が進展している。椅子や机、収納什器などのライフサイクル管理を行うことで、調達・使用・再利用・廃棄のプロセスに環境配慮が組み込まれる。家具リユース・リサイクルの標準化は、ワークプレイスの循環設計を支える重要な仕組みとなる。三菱地所が丸の内エリアで進める「サーキュラーシティ丸の内」プロジェクトでは、オフィスから排出される紙・プラスチック・食品などの廃棄物を一括して可視化し、リサイクルループの最適化を図っている。オフィス入居者、清掃業者、リサイクル事業者が一体となり、排出物を資源として再投入するスキームを形成している点は、FMによる資源循環実践の先駆的事例といえる。

これらの取り組みに共通するのは、「FMが循環経済のプラットフォームとして機能しうる」という点である。資源循環経済の実現において、FMは「資源の入口と出口を統合的につなぐハブ」として重要な位置を占める。設備保全・エネルギー管理の枠を超え、資源の流れそのものを設計・最適化する視点が、これからのFMに求められる。

自然共生(NP)の国内外の潮流

「ネイチャーポジティブ(NaturePositive)」とは、生物多様性の損失を止め、自然を再生・回復させる方向へ経済社会を転換させることを意味する。2022年の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」により、2030年までに「生物多様性の損失を止め、反転させる」ことが世界共通の目標となった。これを受け、日本政府は2023年に「生物多様性国家戦略2023-2030」を策定し、「ネイチャーポジティブ経営」方針では、企業が自然資本を自社の価値創造プロセスに組み込み、リスク回避と新たな成長機会を両立させることを求めている。 自然資本の劣化は、気候変動や資源制約と同様に、企業経営にとっての重大なリスクであり、土地利用、建設、エネルギー、物流など幅広い分野に影響を及ぼす。環境省は、こうした自然資本リスクを企業価値と直結する経営課題として捉え、「ネイチャーポジティブ経済への移行」を国家戦略として推進している。IPBESによれば、世界の陸地の75%、海洋の66%が人為的影響下にあり、生物種の約25%が絶滅の危機にあるとされる。こうした認識の下、TNFD開示や「自然共生サイト」登録制度など、企業と金融を巻き込んだネイチャーポジティブ経営の制度基盤が本格的に整備されつつある。今後、FM領域においても、施設運用や開発計画に「生態系保全」「緑地ネットワーク」「生物多様性指標」などの視点を取り込むことが不可欠となるだろう。

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図表3 エレンマッカーサー財団のバタフライ図

FMによるNP課題解決の可能性と実例

自然共生の実装という点でも、FMの関与はすでに現場レベルでも始まっている。その象徴的事例が、1995年開業のアクロス福岡である。建物の南側全面を階段状の屋上緑化が覆い、隣接する天神中央公園と一体化したランドスケープを形成している。開業当初に比べて植栽は大きく成長し、鳥や昆虫が定着する都市のビオトープとして機能している。FMの視点から見ると、この30年間にわたり植栽管理と地域連携を継続してきたことが、自然共生の持続性を裏づけている。 また、東急不動産が展開する「東京ポートシティ竹芝」「九段会館テラス」「日比谷パークフロント」は、2023年に環境省の「自然共生サイト」認証を取得した。オフィスビルとしての認定は全国でも稀であり、都市ビルが生物多様性保全地域として認定されたことは象徴的である。この事実を踏まえると、自然共生ビルの普及は今後加速が期待される。

また、三井不動産が手掛ける「柏の葉スマートシティ」では、公園・水辺・生態系ネットワークを統合し、都市開発と自然共生を両立させている。FM視点での運用・モニタリングが街区単位で実施され、都市自然の再生を促進し、都市におけるFMが“緑の維持管理”から“自然との共生”へと進化していることを示している。

さらに海外では、オフィスやキャンパス内に生態系再生を組み込む「ネイチャーポジティブデザイン」が進みつつある。英国のTheEdenProjectやシンガポールのCapitaSpringなどは、施設全体を「生きた生態系」として設計し、運用段階でのモニタリングをFMが担っている。英国組織設計事務所のPLPアーキテクチャでは「LIFECENTRIC・生命中心」のまちづくりを世界の各都市で取り組んでおり、そのチャレンジが注目を浴びている。わが国でも日比谷公園と一体化した巨大な緑地空間を持つ開発「PARKCROSSTOKYO構想」などが進行中であるが、データによる生物多様性のマネジメントも、今後のFMの新たな領域となるだろう。

まとめ FMの役割

カーボンニュートラル(CN)、サーキュラーエコノミー(CE)、ネイチャーポジティブ(NP)は個別のテーマではなく、相互に補完し合う「サステナビリティの主要な三本柱」といってよい。CNはエネルギーの持続的循環を、CEは物質・資源の持続的循環を、NPは生命・生態系の持続的循環を対象とするが、それらを現実の場で統合的にマネジメントするのがFMの使命であると言える。FMは、施設のライフサイクル全体を俯瞰し、エネルギー・資源・自然環境のフローを管理する「サステナビリティ・プラットフォーム」とも言えよう。都市・インフラ・建築・設備・ランドスケープ・内装・家具・廃棄物など、あらゆるモノ・コトが循環する仕組みをデザインし、実践する力が求められている。

今後は、データ基盤の整備、サプライチェーン連携、グリーン調達、グリーン認証、ESG評価指標など、FMが経営と環境をつなぐ中核的機能を担うことになるだろう。サステナビリティとは「持続可能な運用」であると同時に、「新しい価値を生み出す創造的行為」でもある。FMはその最前線に立ち、脱炭素・循環・共生を統合する社会システムの実践者として、未来の環境経営を支える存在へと進化していくことが期待される。◀

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図表4 ネイチャーポジティブ原則