第20回(2026)
特別賞
社会医療法人石川記念会
HITO 病院は、愛媛県四国中央市に位置する病床数228 床の地域中核病院である。人口減少と高齢化が進む地方都市において、当院では「人を真ん中においた病院」をブランドコンセプトに掲げ、病院名を「Humanity、Interaction、Trust、Openness」の頭文字から「HITO 病院」と命名し、施設(ハー
ド)とデジタル(ソフト)を一体で捉えたファシリティマネジメント(FM)とDX の推進により、持続可能な地域医療のモデル構築に取り組んでいる。
2013 年の新病院開院以降、約13 年間にわたり、建物・組織・働き方を段階的に見直しながら、地域に根ざした病院のあり方を模索してきた。新病院建設にあたっては、単に医療機能を満たす施設をつくるのではなく、患者や家族、そして働く職員の不安や負担を少しでも和らげる空間づくりを重視した。木を基調としたエントランスから続く二層吹き抜けの「HITO ROAD」や、屋上庭園「HITO TERRACE」、地域にも開かれた最上階のレストランなど、病院を「病を診る場」から「ひとを診る場」へと再定義する空間設計を行っている。

一方、労働人口減少時代において、人の頑張りだけに依存した運営には限界がある。当院のDX は、脳神経外科医の体制縮小という危機への対応から始まり、スマートフォンとチャットを活用した多職種間連携へと発展した。全職員に一人1台iPhone を貸与し、Microsoft 365 やTeams 等の基盤を活用することで、「HITO Smart Facility 1.0」を定義し、ハード・ソフト・デジタル基盤の融合を図った。
この基盤の上に、病棟を小規模な「セル」に分割し、多職種スタッフを配置する「多職種協働セルケアシステム®」を構築した。スタッフがステーションに滞留せず、常に患者のそば(ベッドサイド)でケアに専念できる環境となり、移動や申し送り時間を大幅に削減した。
さらに当院では、OODA ループ(観察・判断・意思決定・実行を循環させる改善手法)を意識し、現場で得られたデータや職員の声をもとに運用を継続的に見直している。空間設計、動線、情報共有の仕組みを一体として再設計し続けることで、変化に適応する組織文化を醸成してきた。また、ICT 企業やシステムベンダーとの伴走型の協働により、情報や業務の流れを変えることで、単なる導入にとどまらない実装と運用改善も、ファシリティDX を支える重要な基盤である。

これらの成果として、看護師の残業時間は年間6,000 時間削減され、リハビリ提供単位数の増加や身体拘束の最小化など、医療の質と生産性の双方が向上している。本取り組みは当院単独ではなく、NTT ドコモビジネス、日本マイクロソフト、ソフトウェア・サービス、CareNect 等のパートナー企業との「共創」によって実現したものである。
HITO 病院のFM は、単なる施設管理を超え、デジタルを融合した「医療価値を生み出すプラットフォーム」として進化している。今後はこのDX モデルを在宅医療や介護、地域全体へと水平展開し、地域包括ケアシステムを支える標準モデルの確立を目指したい。

●サービス提供者
・株式会社NTTドコモビジネス
・株式会社ソフトウェア・サービス
・日本マイクロソフト株式会社
・CareNect 株式会社
●講評
本事例は、医療の質向上、業務効率化、組織変革を同時に実現することを目的に、ICT とFM を一体的に推進した先進的な取り組みである。理事長の強いリーダーシップのもと、全職員への業務用スマートフォン配備と多職種協働セルケアシステムの導入により、縦割り組織を超えた迅速な情報共有と意思決定を可能とし、看護師の年間残業時間6,000 時間削減という顕著な成果を上げている。スマートフォンアプリを活用した医師・医療スタ ッフ間の連携強化は、業務効率の飛躍的向上のみならず、患者と向き合う時間の確保や患者満足度の向上にも直結している。文書上ではFM に関する説明がやや不足していたものの、実地確認では施設運営、動線設計、ICT 環境整備など、FM 視点での工夫が随所に見られた。本事例は、FM の枠組みを基盤としながらも、それを超えて医療の質と組織変革という本質的価値の創出に大きく踏み込んだ取り組みであり、優秀FM 賞に値する水準の成果を示している。その意義を踏まえ、ここに特別賞を授与する。