第20回(2026)

功績賞

  • ワークプレイス

データサイエンスによるワークプレイス・プランニング革命( 博士論文)

熊谷 比斗史 (株式会社ファシリテイメント研究所)

データサイエンスによるワークプレイス・プランニング革命( 博士論文)

本研究の内容については、既報のJFMA ジャーナル2025 SUMMER を参照いただくとし、本稿では、研究の背景・FM における意義・将来の展望について述べる。

ワークプレイス・プランニングの課題

本研究の背景は、広く浸透しつつあるABW、および、コロナ禍により急速に浸透したハイブリッドワーク(以下ABHBW)にある。これらの働き方で、ワーカーのウェルビーイングを向上することが、FM にとっての第一の目的ではあるが、実際にはうまく実現・活用できていない事例も少なからず見受けられる。これまでの経験的・ケーススタディ的なプランニングでは、複雑で多様化するAB-HBW においては正確性を欠き、多額の投資を管理するファシリティマネジャーにとっては、より客観的なプランニング手法が求められる。

さまざまな「知識」を結びつけるプラットフォーム

JMFA 賞応募に当たって「革命」と銘打っているが、本研究は、これまでの経験、手法や研究を否定し全く新しいAI を作ったということではない。断片的には正確なこれらの「知識」を組み合わせて、全体としてワーカーの行動を予測できる計算手法(anyWhere to Work: と命名。略称aWtW)を考案したことに新規性とFM における意義があると考えている。

この計算は、まず、ワーカーが働く場を選ぶことに影響するすべて(と仮定)の要素を計算可能なコンテキスト(ベクトル)にすることから始め、それらを比較的単純な3 段階に①アクティビティのパフォーマンスに影響②プレイスの選択に直接影響③アクティビティとプレイスの関係性を計算することで、ワーカーの行動を予測するプラットフォームを考案した。

ワーカーとの対話による動的なワークプレイス形成

AB-HBW の場が活用されない原因はワーカーの行動変容が起きていないこととする見解もある。そのためチェンジマネジメントトレーニング等を導入する例も少なくない。このチェンジマネジメントも必要ではあるが、個々のワーカーにイクスピリエンス(感動的体験)を与え、個々人が変容・成長を実感していくことがより効果的であると考えている。

本研究では、aWtW 計算を、ワーカー自身が日々の行動誘発と振り返りができるアプリとして実装した。残念ながら、実際の現場での検証にはいたっていないが、このアプリにより個々人の行動変容をサポートできると確信している。また、ワーカーの行動成長も含めワークプレイスのデジタルツイン上でシミュレーションすることで、ワークプレイスの使われ方や必要とされる行動変容を予測できるようになると確信している。

●講評
本功績は、FM 分野の博士論文として、データサイエンスをワークプレイスプランニングの中核に位置づけ、人の行動・働き方・空間利用を定量的に捉える新たな方法論を提示した点にある。従来は経験則や感覚に頼りがちであったワークプレイス設計に対し、行動ログや利用データの分析を通じて客観的な意思決定を可能にした意義は大きい。ハイブリッドワークが進展する中で、働き方改革、生産性向上、ウェルビーイング向上といった課題に対し、科学的根拠に基づく検討基盤を与えている点も高く評価される。実用化・実装については今後の展開に委ねられる部分もあるが、実務と学術を架橋しながらFM・ワークプレイス分野を新たなフェーズへ導こうとする先導的な研究成果として、本功績は高く評価できる。