第19回(2025)

功績賞

  • 公共

公共FMに資する固定資産台帳に基づく施設資産評価に関する研究 (博士論文)

斉藤 孝治 (名古屋大学大学院)

公共FMに資する固定資産台帳に基づく施設資産評価に関する研究 (博士論文)

研究の背景と目的

現在我が国では、公共施設の老朽化、人口減少等を背景に、2014 年には、各自治体に公共施設等総合管理計画(以下、総合管理計画)策定要請がなされた。現在約10 年が経過するが、整備進捗状況を把握する自治体や研究は少なく、適切な進捗状況の評価が求められる。一方で地方公会計改革に伴い、活用事例が未だ少ない固定資産台帳の公共FM への導入が期待される。そこで、固定資産台帳を用いた施設資産評価の提案を行い、総合管理計画策定要請以降の整備進捗状況の差異や課題を明らかにすることで、公共FM に資する施設資産評価に関する知見を得ることを目的とした。

研究の方法

愛知県内や先行して公共FM に着手した自治体を対象とし、公開されている固定資産台帳よりデータベースを構築した。そして施設資産評価の提案を行い、進捗状況の差異や課題について数値的に明らかにした。加えて自治体ヒアリングを通じ、行政内のFM 体制等の実態や課題を分析した。

施設資産評価に関する知見・各自治体への客観的把握や改善に役立つ成果

①総合管理計画策定要請以降は、整備内容や整備判断、行政内の体制の変化が明らかとなったことから、公共FM における転換期と位置付けられ、各自治体の投資のあり方や考え方に変化が表れたことが示された。したがって、投資の視点から現状を捉えることは、その変化や自治体間の差異を把握できる点で有効な視点であると同時に、現状の公共FM において、固定資産台帳を用いた施設資産評価をはじめとした投資的な視点による評価の重要性を示すことができた。

②施設資産評価より施設整備の課題や差異について8 つの状態として明らかにした。これらは特に転換期に伴い施設整備に差異が生じ始めた現状においては、自治体毎の取組を見直し、評価する重要な知見となる。既に大半の自治体において整備済みである固定資産台帳が算定元であり、複数自治体の比較なしに客観的な把握・評価、改善に向けた検討が可能なため、各自治体の公共FM に寄与するものである。

③ヒアリングより全庁的なFM 体制も見られたが、施設全体で捉える視点がまだまだ不十分であることが現状の課題として指摘できた。一方、施設資産評価は施設全体を扱い、効率的な投資を支援する評価であることから、公共FM に対し、施設資産評価が一助となることが示された。

今後は継続的なデータ構築や施設資産評価の実践・検証を通じて、自治体特性に応じた投資・施設整備のあり方を明らかにし、公共FM のさらなる推進に貢献していきたい。

●講評
名古屋大学提出の学位論文「公共施設マネジメントに資する固定資産台帳に基づく施設資産評価に関する研究」の応募。調査対象としたのは愛知県下の23 自治体の固定資産台帳や公共施設等総合管理計画記載のデータなど。当論文では、23 自治体の固定資産台帳データなどを自身でデータベース化し、これをもとに評価・分析を進めている。データ分析では減価償却率(老朽度)と用途別経費の2 軸による分析に加えて、他のデータを加味して公共施設に関する課題の抽出を試みている。例えば、2014 年の公共施設等総合管理計画作成要請後には、新築・建替から改修中心の傾向に転じたことなどが考察されている。また、公共施設にかける経費は、老朽度に対応するのではなく、別の要素により用途間で不均衡が生じているという分析もある。地方自治体の個々のデータは閲覧・入手が可能だが、他の自治体と比較検討するには、当論文のようにデータベースを構築する必要がある。こうした自治体を横断するデータベースを活用して公共FM 戦略策定の資料とすることが有効で、当論文はその初期モデルを提示するものと評価できる。