第18回(2024)
功績賞
東海林伸篤 (世田谷区環境政策部)
人口減少と超高齢化、大量のインフラの老朽化等により国及び地方自治体の財政状況は逼迫している。公共サービスの質がより高く求められる中で、官民が連携し持続可能な地域社会を共につくり上げていく必要がある。しかしPFI においては、公共施設等の整備費を税財源から延べ払いをするサービス購入型が多くを占め、民間事業者の創意工夫が限定的である点や、ノウハウの少ない地元事業者の参画が困難であり地域内の経済循環につながりにくいなどの課題がある。
一方で近年では、官民が共に取り組むことによる付加価値の創出効果が期待されるようになっている。本研究は、こうした付加価値の創出を持続的に可能とする官民連携事業を実現するために何が必要か? という点を問題意識として据え、そのための有効な仕組み(マネジメント手法)を明らかにすることを目的とする。
関連する分野の先行研究調査を行い、国土交通省と内閣府が公表する官民連携事業に関する事例集や報告書に掲載の95 事例から抽出した15 事例の事業フローの整理・分析を行った上で、岩手県紫波町オガールプロジェクトを選定し、フィールド調査とヒアリング調査を行った。また、マネジメントモデルの考察には P2M(プロジェクト&プログラムマネジメント)理論注1)を応用した。
研究の結果、
①目的が明確となった開かれた公共空間の実現のためには「市民参加」を重視すべきこと。
②社会的価値と経済的価値の創出のバランスを図った事業プロセスが必要であること。
③現状の官民連携においては、財源をもつ官が上に立ち民間側はその下でコストダウンや効率化に取り組む縦の連携が多く、行政の思考の枠組みを超えるイノベーションが起こりにくいこと。
④官民が対等に連携し民間PM(プログラムマネジャー)が「経済自立性の担保」、公共PMO(プログラムマネジメントオフィス)が「公共性の担保」の役割を果たすことで付加価値を創出するマネジメントが可能となること(図 右)を明らかにした。さらに以上の検証結果を踏まえ、
⑤公共空間整備・運営マネジメントの5 つの要点と10 の視点を設定し、
⑥公共施設づくりにおける「全体最適化」のフレームワークとしての「持続可能な官民連携事業創出のためのプロセス指針(官民連携事業プロセス指針)」を構築し、自治体ヒアリングによる検証の結果、官民連携事業のプロセスを地域全体で共有する見取り図としての指針の必要性を明らかにした。
これらの成果を、今後、実際の公共プロジェクトに適用し、公共FM の発展に貢献していきたい。
注1 P2M 理論は、経済産業省の指導により生まれたプロジェクトマネジメントの理論である。本研究では国際P2M 学会の考え方を参照した。特に、複数のプロジェクトを統合的にマネジメントし価値の創出につなげる「プログラムマネジメント」を重視するという特徴がある。
●講評
宮城大学大学院で取得した博士論文に関する応募である。本応募については官民連携、公共空間、公共性、プログラムマネジメント、プロジェクトマネジメントといった公共FM の分野でもなじみの深い内容である。また本研究で中心的に活用されている事例が、紫波町オガールプロジェクト(2016年最優秀FM賞受賞)であることで、テーマ、内容ともにFM 分野に近いという特徴がある。FM分野での貢献性については、第7章地域活性化に資する公共空間の公共性、第8 章地域活性化に資する官民連携事業のマネジメント手法を踏まえて第9 章で展開されている「公共空間整備・運営マネジメントの5 つの要点と10の視点」が、今後持続可能な官民連携事業を創出するうえで、そのプロセスを検討するヒントになる。とくに、5つの要点で示された①ビジョンの設定と共有、②体制の構築、③価値創出に向けたプロセスの重視、④適切な人選と情報共有のマネジメント、⑤パブリックマインドの醸成は、公共FM のプロジェクトにおいても検討するうえで、有用と思われ、功績賞に値する。