第17回(2023)
特別賞
福島県大熊町
大熊町は、東日本大震災(以下大震災)と福島第一原子力発電所の事故(以下原発事故)発生後、町内全域が警戒区域に指定され、全町民が避難となった。2012 年12 月に避難指示区域の見直し,2019 年4 月に避難指示解除準備区域と居住制限区域,2020 年3 月に帰還困難区域内のJR大野駅周辺など一部地域において避難指示が解除された。
また、2017 年11 月に特定復興再生拠点区域復興再生計画が内閣総理大臣によって認定され、2022 年春を目標に帰還困難区域の一部の地域で避難指示の解除に向けて準備を進めていた。JR 大野駅周辺および下野上エリアを下野上地区復興拠点として、住民の帰還や町外からの住民を受け入れる環境の整備を目指している。

大熊町は、震災と原発事故からの復興と創生を目指し、産業・企業の誘致について帰町を検討する企業の方々も含めて、人と生業を軸とした地域の振興政策を推進している。その中で大熊インキュベーションセンターを1 つの産業拠点として企業を誘致し雇用を創出することを目指している。
大熊町は、近隣立地企業との親和性のある高度技術や産業シーズの他、学術的見識を用いたシナジー効果を狙ったインキュベーション機能を運用する目的で、2021 年当時に未だ帰還困難区域内にあった旧大熊町立大野小学校をオフィスとしてコンバージョンを行うことを企画した。オフィスの構築に際しては、イノベーションを促す「場」の力をより大きなものとするため、ABW を指向し、施設のデザインを行っている。

本プロジェクトは、2022 年春の帰還困難区域の一部の地域で避難指示の解除に合わせた運用開始に向けて進められ、企画、設計、施工など一連の業務主体は大熊町であり行政組織自ら担った。フロントローディングを徹底したプロジェクト管理をインハウスの認定ファシリティマネジャーを中心に実施され建築設計着手後1 年で竣工し2022 年4 月にはプレオープンを達成した。また、サービス提供者は、すべて東北に拠点を置く事業者であり、その中でも、特に施設運営の委託先と家具調達は、大熊町内に拠点を置く事業者の方々であり、町の産業の復興を先んじて具現化したものとなった。

大熊インキュベーションセンターは、2022 年6 月末の避難指示解除を受け7 月22 日に開所し、2023 年1 月現在、本施設には63 社が入居している。これは大熊町内の帰還困難区域であった地域の復興にとって、社会への波及力は大きい。
●サービス提供者
・ビジネスゲートウェイ株式会社
・株式会社楠山設計
・常磐開発株式会社
・株式会社ユアテック
・株式会社双葉事務器
●講評
東日本大震災と福島原発事故により、全町域が帰還困難区域となった福島県大熊町の復興(特定復興再生拠点)地域での、インキュベーション施設の構築と運営の応募である。旧大野小学校の建物を、劣化が著しい部分は減築し、残りの建物を必要最小限の改修により、インキュベーション施設として短期間で再生した。本施設の企画、設計、施工など、一連の業務主体は大熊町で、行政組織自らが担っている。改修費用も大熊町の自主財源(単費)によっている。開所は2022 年7 月で、PDCA サイクルを回す目標管理は実践途上だが、すでに貸事務所で6、シェアオフィスで30 のテナントが入居して活動している。入居テナントも、バイオマス発電、バイオテック、農業インターンシップによる人材育成、自動運転による公共交通サービスの実証・実験など多様な組織による復興事業への参加、地域創成への意欲が感じられる。FM 体制は統括マネジメントは大熊町が行い、施設運営はビジネスゲートウェイ社に委託している。同社が熱意をもって施設運営に当たっており、テナントの誘致などで、大熊町の担当職員と連係しながら、すぐれた成果をあげている。全国の市町村もいずれ公共サービスを外部委託する時代が来つつあり、よい見本ともいえる。町民の居住人口が震災前の約12,000 人から1,000 人までになるなど多大な困難があるなかで、ゼロからのまちづくりに際してインキュベーション事業を選択し、短期間で本施設を始動させた点に敬意を表したい。事業が開花するのはこれからだが、本施設のスタッフやテナントなど参加者が前向きで明るいことなどが、「場」の価値と存在感を高めている。