第17回(2023)

功績賞

  • テクノロジー・DX

修理系モデルによる空調設備保全計画に関する研究( 博士論文)

久保井 大輔(東京電力ホールディングス株式会社)

修理系モデルによる空調設備保全計画に関する研究( 博士論文)

はじめに

「設備更新の最適なタイミングはいつか?」 ファシリティマネジメントを行う中で、建物の運用・保全における費用とエネルギーの多くは空調や照明等で消費されるが、これら建物付帯設備は建物躯体に比べて耐⽤年数が短く、建物の使⽤期間中に複数回の更新が必要となる。建築設備の更新周期について既往の研究や文献に参考となる値が示されてはいるものの、それが最適値なのかは判断し難く、結果として長年の経験や実績に基づき設備更新を行っている場合が見受けられる。

本研究は、多額のコストとエネルギーを消費する空調設備について、管理する建物の使用環境条件に応じた機器の劣化や故障の状況を評価・把握し、機器費用、修理費用及びエネルギー費用などを考慮した形で機器・システムに関する経済合理性の高い更新周期を定量的に求めることを目的として取り組んだ一連の内容をまとめたものである。

建物を保有する事業者は、経済性をより⼀層追求しながらも地球環境負荷の低減、エネルギー・資源の有効利⽤に資する設備形成の実現が求められ、さらに建築技術者を有する事業者であれば環境性と経済合理性を両⽴するオーナーズ・エンジニアリングが求められる所でもあるが、本研究の成果が保全データを活⽤して理論的かつ定量的に建築設備の最適更新周期を予測する汎⽤的な⽅法として今後活用されることを期待している。

研究概要

本研究では、⻑期観測体制が整備されていなくても事後から機器の不具合発⽣傾向を捉える⼿段として、その時点での機器の劣化や故障の状態が記録されている定期点検結果の活用方法を考案した。また、多数の部品で構成される空調設備機器を信頼性工学の “ 修理系” アイテムとして扱うことで、ワイブルプロセスモデルを用いて保全データを基に機器の不具合発生傾向を定量的に評価する理論と解析方法を明らかにし、使用環境条件による影響評価を行うための“ 回帰モデル” を提案した。

続いて、保全データの解析から得られる機器の信頼性特性値並びに関係するイニシャル及びランニングコスト情報を用いて機器・システムの最適更新周期を求める方法として、まず機器の不具合発生傾向を加味したLCC 計算による最適更新周期( 本研究では“LCC 耐用年数”と定義) の試算結果を示した。そして、そこでの課題を踏まえて、建物寿命に依らず経済合理性の高い最適更新周期を求める理論モデルとして“ 費⽤最適化モデル” を提案した。

まとめ

本研究では、⼿元にあるデータ活⽤と⽐較的容易に最適解を求められるということに留意して、機器の最適更新周期に関する⼀つの答えを導いた。デジタルトランスフォーメーションが進む現在、データを蓄積し、それを活⽤する技術を持つこと、そしてデータを基に正しい判断を下すことがファシリティマネジメントのさらなる発展に寄与すると考える。

●講評
博士論文の応募である。本論文は信頼性理論における修理系モデルを用いて空調設備機器の不具合発生傾向を定量的に評価する解析方法を求めたもの。FM の普及・発展への貢献では、保全データを活用して、定量的に空調設備の更新周期を理論的に予測できる方法の1 つを与えてくれるもので、FM の維持保全における長期、中期の保全計画作成に、今後活用できる可能性がある。ただし、本論文では解析に利用したデータが単独企業の使用する設備機器のものなので、今後、使用条件などが多様な機器の解析方法へと発展を期待したい。現在の保全計画では、更新周期の設定は過去の実績を中心にした経験的知見に基づくものが中心になっているが、将来、理論的に更新周期を求める方法を探る上で有効な視点を提供してくれるものであり、FMに有用な論文といえる。