第16回(2022)

優秀FM賞

  • ワークプレイス
  • 働き方改革
  • エンゲージメント
  • リノベーション
  • ファシリティマネジャー

築60年のビンテージビルに新しいオフィスのスタンダードを創る

株式会社リクルート

築60年のビンテージビルに新しいオフィスのスタンダードを創る

はじめに

リクルートではその時々の社会や会社の方針に合わせてワークプレイスを取り巻く施策を実施し続けてきた。拠点分散の管理の煩雑さの解消や会社統合による変化は顕在的な課題として存在していたが、われわれはそれらの解消だけでなく、リクルートのこれからの働き方と、それにふさわしいオフィスの形を具現化することを今回のプロジェクトのターゲットとおいた。テレワークが当たり前となり、働く場所がオフィスだけでなく自宅やサテライトオフィスへと選択肢が広がった時代のオフィス環境の未来を想像し、バックキャストで施策を計画し実行した取り組みについてご紹介したい。

プロジェクトの舞台

われわれが選んだビルは、1960年竣工の築古ビル。東京メトロ九段下駅から徒歩1分。靖国神社や皇居外苑、武道館などの自然豊かな緑に囲まれた場所に位置する歴史ある建物を総リノベーションした。東京駅の本社はそのままに周辺拠点7拠点を集約し、約1,500人の従業員が入居しただけでなく、全従業員のサテライトオフィスとして2021年3月にOPENした。リクルートは全国に500の拠点があり、基本的には駅近の新しいビルを借りているが、既存のビルでは難しい、制約なく自由に新しいチャレンジができるビルを以前より探していた。廃校や公園など幅広く探している中、やっと出会ったのが、取り壊し寸前の今回の物件だった。

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コンセプトヴィジュアル

4つの施策

目指したのは、従来の常識にとらわれずゼロべ―スで新たなスタンダードを創ること。この柱の元、築古ビルが持つ独自の良さと最新のテクノロジーを組み合わせて、4つの施策を実行した。

(1)集まるためのオフィス
テレワークの比重が高まり、一律出社が当たり前でなくなる未来に、オフィスに強く求められるのが「集まる」という機能と仮説を立てた。 2~200名規模のさまざまなサイズのチームが目的に応じて柔軟に場所を選べるような各種の集まるスペースを用意した。またレイアウトの柔軟性にもこだわった。従業員それぞれが自分達の好きな形に可変できるように電源の位置という制限をなくし、什器や壁も徹底して可動できるものを導入した。壁に最低限の電源タップはあるが、基本的には各スペースに設えてあるモバイルバッテリーを使うスタイル。電源は什器に固定するものという前提を取り払うことで人と什器と空間の可動性を高めることができた。

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各種の集まるスペース

(2)何も触れずに過ごせるオフィス
安心安全な環境でないと集まらないし集まりづらい。当たり前だがオフィスには共用部分がたくさんある。そしてそれら設備や機器への直接操作は実は煩わしく非効率である。そこで、執務室の扉に自動扉を採用したり、照明スイッチやエレベーターのボタンをタッチレスに。タッチの機会を88.13%削減した。

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タッチレスの仕掛け

(3)ワーカーの活力を養うウェルビーイング
テレワークにより懸念されるようになったのが健康へのリスク。自宅での長時間労働が肩こりや腰痛、精神的なストレスにつながることや、毎日の通勤が適度な運動機会であったことに気づいた。そこで、施設内階段の積極利用などの仕掛けやランニングステーションを設置することで、ワーカーに運動の機会を提供した。

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ランニングステーション

(4)地域社会・地球環境との共生
築62年の築古ビルを使い続けるということ。余計なものを作らず、あるものを最大限生かすということ。これこそが最大のSDGsではないかと考える。オフィスのスタンダードであるOA床は必要性を疑い排除。古き良き既存のサインや建築躯体は活用。そして歴史を知り地域の理解を深めることで地域社会・地球環境との共生を試みた。

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躯体を活用したサイン

●サービス提供者
・株式会社コスモスモア
・株式会社スキーマ建築計画
・株式会社フロンティアコンサルティング

●講評
過去2 回奨励賞を受賞している同社の3 回目の応募である。全社再編の途上にあり、その先行部分についての活動といえる。既存の本社オフィス付近に分散する7 拠点を九段坂上KS ビル(中層の5 棟構成)に集約した。面積的にはほぼ同じで、年間賃料を約60%削減し、改修投資活動の原資としている。専用部分と共用部の面積比は50 対50 とし、共用部を拡大して入居部門以外のユーザーでも使えるようにしている。将来の働き方策定から現在の施策を計画するオフィスづくりをめざし、①ウエルビーイング、②チーム中心のABW、③安全なタッチレス環境、④地域社会、地球環境との共生の4 つを柱としている。2021年3 月入居で活動期間は短いが、全社的にテレワークを基本と位置づけ、セントラルオフィスはHUB 機能に集約する同社の新しい働き方を実現するキーとなるワークプレイスと位置づけて働き方改革を進めている。築60 年のビル改修に際しては、二重床とせずフラットケーブルを活用、コンセント新設に代えて長時間駆動可能な携帯型バッテリーを多用、エレベータやドアのタッチレス化など、さまざまな工夫がある。継続的に社内でFMを発展させた完成度の高いプロジェクトの実践例である。