第16回(2022)
最優秀FM賞(鵜澤賞)
東京都板橋区
区では、高度成長期に人口の急激な増加に合わせて多くの施設を整備してきたが、約8割の施設が建設から30年以上経過し、更新の時期を迎えている。今後、少子高齢化の進行や生産年齢人口の減少による税収減が見込まれ、施設の維持管理経費が大きな財政負担になることが予測され、将来を見据えた中長期的な視点が不可欠であると考えた。そこで、区政経営の主軸として、施設に関わる組織が一体となり、継続的に公共施設マネジメントに取り組んでいる。
まず取り組んだのが、人口や財政の状況、施設の現況(利用状況・管理運営経費・近隣自治体との比較・LCCなど)の「見える化」である。また、施設整備における基本的な考え方や施設種別ごとの整備の方向性、区内を18地区に分けて現状と将来の方向性をまとめた「基本方針」を定め、 2013年に「マスタープラン」を策定した。
次に、計画を推進・実行するため、区議会や全庁的な検討、学識経験者の助言、財政シミュレーション、区民意識意向調査や意見募集、説明会の実施、地区ごとの集約・複合化プランの編成、施設整備における実施方針等をまとめ、2015年に「個別整備計画」を策定した。公共施設の耐用年数が長期間にも及ぶことから40年の計画として、10年間を第1期とし、前期5年間は年次計画を後期5年間は目標事業量を示して総合計画へ反映し、以降10年を経るごとにローリングしていくこととした。
2019年には、「個別整備計画」策定後の状況変化や課題に的確に対応し、再編・整備を着実に実行していくため、施設の改築・改修等の実施時期と、経費の目安を示した情報からなる、区の総合計画と一体的な基礎計画として、「ベースプラン」へと整理した。特筆すべき点は、「ベースプラン」で示した更新時期を迎える施設について、あり方を検討する必要がある施設を「経営革新計画」に位置づけて検討した上で、整備が必要な施設を「実施計画」へ反映し、「ベースプラン」へフィードバックするサイクルとした点である。

維持改修経費の予算編成にあたっては、重要度や緊急度などの観点から全案件に優先順位を付け、その結果を基に採否を決定している。具体的には、見積書、図面、部位データ、工事履歴、法定・日常点検等の情報から劣化の状況や運営上の影響を判断し、全案件を指数化していく。同一指数となる場合は、耐用年数、二次被害や事故の可能性、ユニバーサルデザインへの貢献、温室効果ガスの削減などを数値化することにより優先順位を決定している。
この取り組みにより、財政部局へ示した優先順位の高い案件については概ね採択され、突発的な緊急工事が大幅に減少するなど一定の成果が挙がってきている。

庁内連携では、保全規程やプロジェクトマネジメント要領等の整備、庁内ポータルを活用した情報共有、意識啓発を目的とした「エフエム通信」の発行を行っている。また、広域連携では「東京23区地域会」、内閣府や地域総合整備財団等の要請による講師派遣、JFMAの「公共施設FM研究部会」など、取り組みの周知やFMの啓発活動を行っている。
施設整備におけるFM課題への対応では、窓口サービスのわかりやすさ・災害時に頼れる安心・安全をテーマに掲げた板橋区役所本庁舎の南館改築・北館改修をはじめ、公園への中央図書館の移転改築、「BELCA賞」を受賞した板橋区立美術館の大規模改修、体育館大規模改修に合わせた植村冒険館の複合化、SDGsを体現する施設にリニューアルした子ども動物園など、未来志向の公共施設マネジメントを実践し続けている。

●講評
東京都板橋区の10年間にわたる公共 FM 取り組みに関する応募。板橋区の人口は約57万人、公共施設は428施設、約87.3万㎡に及ぶ( 1.55㎡/人)。 2011年から公共FMに取り組み、施設白書での現況把握から出発し、方向性を定めたマスタープラン、個別整備計画を策定し実行するなど継続的に取り組まれている。全庁横断的な権限が容易に獲得しにくい公共経営の枠組みのなかで、保全規程と維持改修経費の優先順位作成や、プロジェクト計画段階での事前調整の仕組みをつくり、政策経営部での統括的なマネジメントが機能している。公共施設 等総合管理計画と個別計画に相当する「公共施設等ベースプラン」を定期的に改訂し、 PDCAサイクルを回している。また、情報発信や庁内 FM 研修、 23区の FM ネットワークづくりでも積極的に活動を続けている。トップダウンとボトムアップの両面の良さが出ている見事な FM 実践例である。