第14回(2020)
優秀FM賞
地方独立行政法人 岐阜県立下呂温泉病院
岐阜県立下呂温泉病院は、飛騨南部地域の中核病院として「生活の場の医療」を基本理念とし、生活している場所でしか受けられない医療を提供し、地域住民及び県民から信頼され必要とされるように、2009 年新病院建設の基本計画を策定した。
「病室は患者のプライバシー保護及びアメニティの向上を考慮し、個室と見守りルーム(4 床観察室)の構成」の全室個室病棟を計画し実現した。2014年3月の竣工後には、2016 年の調査、2019 年の綿密な調査により、全室個室病棟の優位性について十分機能していることが確認できた。

公立病院で差額料なしの全室個室病棟を実現するために、5 つの個室を多床室のように配置したユニット型個室を考案した。病室扉はベッド移動が可能な十分な幅を確保し、中心のユニットホールはベッド回転のスペースとなるとともに、看護師の作業にも使われるようにした。
トイレはユニットごとに1 カ所とし、各病室は必要最小限の面積と設備とした。

他に類を見ない形態であることから、設計建設段階からスタッフの理解を得やすいBIM*1 による3次元図面でのプレゼンや、病室ユニットのモックアップにより病室手洗いの形状やコンセント類の配置等についての改善を図った。
病院は移転前から院内感染防止対策を積み重ねていたが、全室個室化と建設前のさまざまなPDCA を通じて院内感染を激減させることができた。
*1 BIM:コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した3 次元の建物のデジタルモデル

竣工後2 年目の調査にて、全室個室病棟は院内感染防止の成果と、転科転棟にてベッドコントロールが容易であることは確認できた。しかし、看護動線が長い、患者のコミュニケーション不足などの指摘があがっていた。その後、パートナーシップ看護システム(PNS) *2 導入などの運営改善や、患者の意識の変化により、これらのデメリットが改善されていることが竣工後5 年目の綿密な調査にて確認できた。
この調査は、概ね24 時間の看護師行動調査を実施し、動線量の算出と各場所での行為の把握を行った。
*2 パートナーシップ看護システム(PNS):2人の看護師が良きパートナーとして対等な立場で互いの特性を活かし、相互に補完し協力し合って、安全で質の高い看護を共に提供することを目的とした看護体制

この病棟は前述のユニット型個室をスタッフステーション中心に360 度配置させている。スタッフステーション内部の十字通路と各病室の近接といった病棟平面の特徴を利用して看護師は移動していた。
さらにPNS で2 人で電子カルテ端末等を載せたPC カートとワゴンカートにて移動しており、ユニットホールにて準備や記録などの看護作業を行っていることから、効率の良い看護が実現されていた。
このようなことより、受持ち患者の位置が病棟内のどの位置になろうとも看護動線の変化が少なく全ての個室が同条件となっているため、入院後のベッド移動がほとんどなくなっていた。
また、ユニットごとの窓のある談話コーナーにより、患者同士や家族とスタッフの会話などに有効に利用されていた。

公立初の差額料なしの全個室病棟は、基本計画から設計・建設・運営に至るまで、一貫したFM 体制により実現された。
基本計画にて「生活の場の医療」としての全室個室病棟を打ち出した山森理事長を中心に、毎朝の幹部会議、月1 回の管理会議、外部アドバイザーによるFM 支援により、適切なFM を実行した。今後は恒常的なFM 組織の設立を検討することとしている。

●サービス提供者
・株式会社安井建築設計事務所
・三重大学 教授 加藤 彰一
・名古屋大学 名誉教授 谷口 元
●講評
2014 年竣工の県立病院の計画と運営に関するFM 実践事例の応募である。2009 年より基本計画を開始し、プロポーザルでの設計者選定、その後の設計期間を通して、公立病院としては画期的な全室個室病棟(差額なし)の計画が練り上げられた。竣工後においても、看護師の動線が長くなる課題を解決する効率的な看護体制への改善など、PDCA を回す経営が継続されている。病棟水回りなどを工夫し、工費もローコストに抑えられている。現理事長のリーダーシップとスタッフの努力により、全個室型病院の企画・計画・設計、竣工後の運営と改善が、一貫して取り組まれている点が高く評価された。継続的な改善活動を担保するようFM の組織体制を充実することが今後の課題といえる。