第12回(2018)

功績賞

  • ファシリティマネジャー

FM推進につながる発注者改革への提言(学位論文)

齋藤 隆司 (日本郵政株式会社)

FM推進につながる発注者改革への提言(学位論文)

今日散見される大規模建築プロジェクトにおける白紙撤回、大幅な設計変更など、発注者組織における意思決定のプロセス、責任者不在といった「発注者責任」に多くの疑問が投げかけられている。
FM を推進するうえで、「発注者」の役割は重要である。
本研究では、郵政建築を事例に、建築プロジェクトにおける「発注者の役割・責任」を明らかにすることを目的としている。

郵政建築は、逓信省から郵政省、日本郵政株式会社と、公共から民間へ組織が大きく変化する中で、高いレベルの品質を求めて、所有、企画、設計から維持管理、保全まで、一貫して、FM 業務に発注者として関与してきた歴史を持つ。
しかしながら、時代の変遷、プロジェクトの複雑化とともに発注者機能と設計者・監督員機能に分離され、その結果、プロジェクトマネジャーとしての役割、FM 業務への関与等が大きく変容し、外部依存も進むなかで、発注者体制に「ほころび」が見られるようになった。

この大きな要因を推測すると、
① 建築プロジェクトの発注者として、プロダクトプロセスにおける「発注品質」、「設計品質」、「施工品質」を確保するためには、本来、FM 業務でも行われているように、すべてのプロセスへの発注者の関与が必要であるにもかかわらず、単純な川上シフトを選択したために、専門性が失われたこと
② 発注者としての一貫したマネジメント機能を保持できなかったこと。また、その代替、支援ができるような機能定義がきちんとされていなかったこと
③ 外部化したものの、本来、発注者内調整が多い業務についての理解ができず、円滑に機能しなかったことなどが考えられる。
逆に言えば、今日的な発注者責任、発注者問題の解決策もここに隠されている。

本来、発注者は建築プロジェクトのオーナーという立場だけではなく、建築プロジェクトを作り上げるプロデューサーとして「建築」に対する責任がある。
それゆえ、発注者自らが、プロダクトプロセスにおける主要な参加者として意思決定に加わり、一貫したプロジェクトマネジメント機能を有するような発注者であるべきと考える。

その実現のためには、次のような方策を検討すべきである。
① 一貫した発注者マネジメント体制の構築のための「組織内プロジェクトマネジャー」の導入
② 発注者要求の明確化のための「ブリーフ」の導入
③ 建築プロジェクトへの協調関係構築のための「パートナリング」の導入
④ 一貫して建築プロジェクトへ関与する発注者が存在する「発注者責任制」の導入
⑤ 建築プロジェクトの発注者は、建築が都市景観、環境、公共性など社会、地域に与える影響を十分、考慮すべきである。

さらに、本来の建築プロジェクトの発注者は、「建築」の持つ「崇高さ」を持ち、発注者としてプロジェクトに向き合い自ら発注者責任を明らかにし、きちんとした発注者の役割を果たせる発注者となるべきである。

マネーゲームの行き過ぎが目立つ現代だからこそ、発注者も含めた関係者全員が「ものづくり」の原点を考え直し、改めて社会活動に資するファシリティマネジメントを実現すべきである。少しでも、健全なFM を推進するために、「より良き発注者」の創造に期待したい。

●講評
京都大学の工学系の博士論文についての応募である。学位授与者は日本郵政でFM 関連の業務に従事しており、その立場と実務経験をもとに、郵政建築における建築プロジェクトの発注者の役割の変化と課題に着目した内容となっている。その考察から建築プロジェクトにおける発注者の役割の重要性を見いだし、以下のような提言にまとめている。①発注者責任制の導入、②発注者組織内のプロジェクトマネジャーの設置、③発注者の要求条件に基づくブリーフィング導入による要求の明確化、④プロジェクト参加者間の協調関係構築のためのパートナリングの導入である。建築プロジェクトでは、ファシリティマネジャーは、ユーザーである発注者側の立場にある。発注者側の業務改革を促す本論文は、FM にもよい影響を与えるものといえる。