第12回(2018)

特別賞

  • リノベーション
  • 地域貢献

築100年を目指すビンテージビル「冷泉荘」におけるFMの取組み

吉原住宅有限会社 株式会社スペースRデザイン

築100年を目指すビンテージビル「冷泉荘」におけるFMの取組み

”リノベーションミュージアム冷泉荘”

冷泉荘は、福岡市博多区にある複合文化アトリエである。鉄筋コンクリート造5階地下1階の当建物の中には、アトリエ・店舗など全20組の文化人が入居している。加えて管理人が常駐する事務局、レンタルスペースがあり、年間を通して、催し事が絶えない賑やかなビルだ。

冷泉荘はもともと、賃貸共同住宅であった。建設当時(1958年)は周囲でも最先端を誇っていたビルも、経年劣化により競争力が低下。家賃も下がり、滞納や不良入居者が絶えなくなっていった。経営が悪化の一途をたどる中、オーナーである吉原住宅有限会社は、起死回生の一手として2006年に1棟まるごとオフィスビルへのコンバージョンを決意。不動産再生コンサルティングを手掛けるスペースR デザインと協働で経営再生に着手した。
その後、3年間のブランディング活動を経て、2010年からはビルストック活用を基本理念とした経営にシフト。「ひと」「まち」「文化」をコンセプトに掲げ “リノベーションミュージアム” として再出発し、築100年をめざしている。

ビンテージビル創育プログラム

今年で築60年を迎える冷泉荘は、古さの中に価値を見出す「ビンテージ」の考えのもと、既存のハードを最大限に活かすスタイルで経営管理に取り組んでいる。これが、私たちが展開する、時が経つほど価値が上がる「ビンテージビル創育」事業である。これに則って、冷泉荘では
①セルフリノベーションかつ退去時に原状回復義務を課さない賃貸条件
②レンタルスペースの運営による関係人口の増加
③管理人常駐によるコミュニティデザインの3点をFM の大きな軸としている。

まず、新しい内装よりも自ら手を加えることに魅力を感じる、アーティストやクリエイターをターゲットに絞った。再生当初には投資コストを抑えることができ、長期的には冷泉荘の各部屋は、歴代入居者の手によって常にアップデートされ続ける。さらに、使いやすい価格と規模のレンタルスペースを運営することで、入居者以外にも冷泉荘を訪れる人が増える。そして、管理人は事務局で来客や入居者を出迎え、彼らの相談窓口の役割を果たす。そんな日常の会話の中で、冷泉荘や入居者・開催中のイベントの紹介をし、冷泉荘を軸に人と人をつないでいるのだ。

そうして、ここでの体験が冷泉荘への共感をよび、SNSや口コミなどで情報が発信されていく。冷泉荘の認知は広がり、徐々にブランディングされた結果、現在は周辺の面積が同規模の新築賃貸住宅と同程度の家賃にまで向上している。

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ビンテージビルグラフ

ともに学ぶ場としての冷泉荘

経営改善の見通しが立つと、大規模修繕や耐震補強、外壁など、建物の改修工事を順次実施。その際は、「何を残すか」を意識している。状態のいい既存部屋を見学用にした「冷泉復元部屋」、事務局内の見える場所に挿入した耐震補強ブレース、外壁改修ならぬ「外壁保存」。そして、これらを見てもらえる機会として、年に2回オープンアパートイベント「れいぜん荘ピクニック」も開催している。各入居者による催しや管理人とまわる解説付き一棟ツアーなど、楽しみながらストック活用を体感してもらえる、文化祭的お祭りである。

イベント以外にも、冷泉荘では視察や見学なども積極的に受け入れている。というのも、さまざまな人の目に触れ交流を重ねることで、冷泉荘もまた育つと考えるからだ。もし、近くを通られた際は、ぜひ冷泉荘を訪ねてほしい。

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●講評
1957年竣工の賃貸アパートであった冷泉荘のリノベーションと活用に関する応募である。改修後は、賃貸オフィスだけでなく、貸スペースを設けてアートイベントなどに活用している。原状回復なしとする契約により、アート系、自由度を好む利用者の入居を後押ししている。また、管理人が常駐し、入居者同士をネットワークし、施設活用のイベント企画などを担当し、愛情をもって活用を促している点が特色である。再生・活用のFM 事例としては、なるべく手をかけず、当初の感じを維持したいという意図のようであるが、旧賃貸アパート時代の悪いイメージを取り払い、明るく、親しみやすいものへの変革は成功している。また、建て替えではなく、築60年におよぶ建物を活用する施策を選択して、アートやリノベーションの情報発信を行っていること、近隣のイメージ変革、まちづくりにも貢献していることを評価したい。