JFMAジャーナル 副編集長
幼いころ、四畳半の子ども部屋に2段ベッドが来たとき、妙に心が躍りました。上って部屋を少し高いところから眺めると、机や本棚がいつもとは違った顔をしているように見えます。下段は上段の底が目の前に迫っているためちょっとした隠れ家のような風情になり、こちらも魅力的でした。大人になってみると、2段ベッドは狭い部屋を有効利用できる手軽なツールに見えます。1組の寝具を敷くだけの広さの場所に2組の寝具を無理なく2組セットし、2人の子どもを無理なく収容することができます。アパートやマンションも同じです。複数の住戸を上下に積み重ねることで同じ土地面積に複数の世帯を収容し、土地所有者は多くの家賃を得ることができます。積み重ねるという行為は、面積を何倍にも広げて利用する知恵だと言えます。最近では、農地にもこの知恵が巧みに利用されるようになってきました。
ある山間部に小さな集落がありました。この村は、住民の高齢化とともに遊休農地が増えたことで活気が徐々に失われていました。あるときひとりの若者がやってきて、遊休地となっている土地を再び畑にしたいと申し出ました。村の住民たちは、若者の話を冗談半分に聞いていました。農業はそう簡単にできるものではないことを、彼らはよく知っていました。まして、農業の験者がない若者にやっていけるわけがない。最近は農業の収入だけでは成り立たない。すぐに逃げ出すに違いないと彼らは思ったのです。
しかし、若者はいくども説得に訪れ、熱心に計画を説明しました。育った果実を観光客が収穫する「果物狩りツアー」、果樹の一部を消費者が個人所有するオーナー制度、そして営農型太陽光発電。ほどよい日陰をつくる太陽光パネルの下では農作物がよく育つといいます。支柱があるからブドウを育ててはどうか。日陰を好む高級茶葉などを育てるのもいい。パネルの下で畜産もできるのではないか。そこには、住民たちが考えもつかなかったようなアイデアが満ちていました。そんなにやりたいのだったらやってみるがいい。承諾を得た若者たちは荒れた土地を耕し、苗を植え……やがて新しいかたちの農地が現れました。
営農型太陽光発電は、農地に支柱を立て、その上に発電用のパネルを設置して、農業を行いながら発電を行う取り組みです。地上では作物を収穫し、上空ではエネルギーを生産する。ひとつの土地を層にして有効活用する方法です。これを実現するに当たって、法制度がうまく利用されています。売電は農業ではないため、設備の設置には農地法に基づく農地の一時転用許可が必要です。面積で考えるとパネルの設置部分が全て転用の対象になりそうなものですが、場所で農業も行っています。この場合、支柱部分、つまり支柱の足元の面積を対象として手続きをすることになるのだそうです。面白い工夫です。
試行錯誤で行われている営農型発電ですが、農林水産省が許可したのは、2025年3月末までの累計で6,137件、1361.6haに上るそうです。この中には辞めていった件数も含まれていますが、農作物と電力が同じ土地で生産されていることに、ひと昔前とは違った生産のかたちを見る思いです。営農型太陽光発電そのものの賛否はともかく、耕作放棄地を活用することで自然環境をできるだけ変化させずに人間の食やエネルギーを確保する新しい方法として、しばらく見守っていきたいと思っています。
「FM玉手箱」は、ファシリティマネジメントを実践するプロフェッショナルによるエッセイシリーズです。FMへの想いや知見を詰め込んだ“玉手箱”(=価値ある情報が詰まった箱)として、JFMAジャーナルオンラインでお届けしています。